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ボーンズ アンド オールのnanochiのレビュー・感想・評価

ボーンズ アンド オール(2022年製作の映画)
4.2
レビューは記憶が新鮮なうちに…と思いながら、結局しばらく寝かせてしまった。待望のシャラメ×ルカ監督、さらにはシャラメのプロデューサーとしてのデビュー作。

なんとも言えない胸が重くなる気持ちと、光悦(というのかな?快感にも似た、うっとりして精神的に満たされるような・・)の感情が入り混じる。なぜか圧倒的に美しさが残るのは、結局シャラメだからなの?

マイノリティであることの生き辛さ、秘密と罪を共有する、傷ついた若いふたりが惹かれひ合う姿はやはり期待以上に美しく描かれていて、できることならそのまま時間と空間を切り取ってあげてしまいたいと思った。普通のティーンが恋をするように、尊い時間が流れる。けれど、これが刹那的なしあわせであることに双方とも気づいてはいる・・。
その痛みすらも、黙って共に抱き生きていくふたり、あ、これは愛なんだなと直感的に感じた。

そして2人に忍び寄るアナザー人喰い、サリー。彼の気持ち悪さは、言葉では言い表すことができない。あれがダンケルクのあの船長と知って二度驚き・・。
自分の中の、普段は見えない闇が無理矢理に可視化されたような嫌悪感、、彼と同じように、自分もまた孤独なのだとひたひた迫る恐怖を本能的にシャットアウトしたくなるのか、拒否する力が強すぎて、彼の存在により自分の繊細な部分がどっと疲れた。
傷ついた苦しみを分かち合うことは、自分とであっても難しい。ましてや他人とそれを分かち合うことができるなんて奇跡で、それが叶わぬサリーは唯一の不幸な人じゃないんだと思いたい。思ってあげたい。
目の前に傷を慰め合う同族カップルがいれば、なぜ自分だけがひとりなのだと相対的に不幸が募ってしまうのもわかる気もする。何十年もの間、理解されずに孤独でいたら、気が触れるのも一概には責められない。そうして一歩境界を踏み出し、犯罪となることは現代では悲しいかなよくあることだから。


ふたりが高原で寄り添いあって過ぎる時間、西陽が照らすシャラメ、眠るシャラメ、ああこれぞルカ監督・・!太陽とシャラメが良すぎる。。わたしはシャラメ×ルカに多大な期待をしてしまっていたんだ、と後から気づいたのですが結局は期待なんてとうに超えて、私の膨らみ切った美しいものへの欲望は満たされました。

何かを削がれ吸い取られる、何かが満たされる、暗闇と光の対比が印象的な映画だった。
私はやっぱり惹かれてしまう。
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