ミーハー女子大生

リベンジ・スワップのミーハー女子大生のネタバレレビュー・内容・結末

リベンジ・スワップ(2022年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

大切な人にだけ送ったはずのあるプライベートな動画の流出によって、名門私立校に君臨する女王の座から引きずり降ろされてしまったひとりの女子高生。
自分だけが責められ、大人しくしていることを余儀なくされてしまう。
それでもこのままやられっぱなしは我慢ならない。
そこで偶然に出会った転入生の地味な女子とこっそり手を組み、お互いの敵に復讐することを思いつく。
バレずに復讐するにはこの手しかない。

『リベンジ・スワップ』の監督である“ジェニファー・ケイティン・ロビンソン”は2016年に『Sweet/Vicious』というドラマを手がけており、これは2人の女子大生が性暴力加害者に復讐する自警団として活動しているという内容でした。
復讐モノはお茶の子さいさいな監督です。

今回は少し捻りを加えて、復讐をシェアするのではなく、トレードするというアプローチをとっています。
ドレアはエレノアにとっての憎き相手であるカリッサに、エレノアはドレアにとっての憎き相手であるマックスに、それぞれが復讐する。
交換復讐なら復讐したこともバレないだろう…と。

なんか「交換殺人」を描いた“アルフレッド・ヒッチコック”監督の『見知らぬ乗客』みたいですね。

この交換殺人の各自パートは痛快です。
ドレアがエレノアをイケてるガールに変身させたりして、いかにもティーンのポップなリベンジ・ストーリーらしい快感があります。
カリッサが栽培するマッシュルームや大麻をたっぷり使ってみんなをハイにさせるとか、フィクションならではのオーバーなやり方もあったり。

そしてついにマックスのスマホのデータを奪取してそのやりたい放題な女性遍歴を暴露してやり、これで復讐は完了かと思いきや…
ここでしぶとさを見せるマックス。
あの「実はポリアモリーなんです!」「え?そんなマイノリティだったの?可哀想に!」と同情を買う作戦のあり得なさといい、それで納得しちゃう学校の世間といい、今のティーンは大変だなと気の毒に思えてくる…。
加害者の方が同情を集めやすいのはどの年代でも“あるある”な話だけど…(典型的なヒムパシー)。

ここから復讐の第2ラウンドなのかと、そんな雰囲気でしたが、ここで本作は真相をバラします。
実はエレノアが真に復讐したい相手はドレアでした。
ドレアはエレノアに酷いことをしたことを、車内で言及されても気づきすらしなかった…。

無自覚な悪意を気楽に保有する加害者がいかに被害者にとって最悪なものか…反転することで思い知らせる…。
なかなかに巧妙な怨讐へのカウンターをエレノアは用意周到に練っていたのでした。

ちょっと上手くいきすぎなのですが、被害・加害の構造を炙り出すという点では効果を発揮している展開だったかなと思います。
ほんと、こういう加害者性を自覚しないまま被害者に寄り添ってくる人は実際にいますし、これは私も含めて誰でも自省しないといけないことですからね。

まさかの展開へと後半は突入する『リベンジ・スワップ』ですが、どうオチをつけるのかなと思ったら、そこは無難にドレアが加害者性を自覚して反省するという着地でした。
リベンジなんかでは救われないと復讐の危険性を指摘するのも当然。
そもそもの今回のドレアの被害もリベンジポルノですし、身勝手なリベンジは肯定できないのは妥当な道徳的帰結です。

とは言え、きっちりマックスには復讐は完遂します。
2人で力を合わせて、録画でマックスのアホな犯行自慢を世間に暴露。
溜飲が下がる結末。
フェイク・ウォーク(fake woke)の差別野郎ナルシストはぶっ潰しました。
最後まで悪役に徹する良いクソなキャラだったな…。
エンディングのセラピーで改心するかな…。

個人的には最後はシスターフッドで丸く収まるという定番もやや甘いのかなとは思います。
別に「加害者を赦す」ということは必然ではないはずなのですが、同性同士だとその「赦し」を良しとする空気が高まったりするものじゃないですか。
同性なら仲良くするべきだ…みたいな。

『リベンジ・スワップ』は一番の弱者枠であるエレノアがセクシュアル・マイノリティだけど白人という設定になっており、比較的温和に和解できる構図になっているので、そこは意識しておかないといけない部分かなと思います。
これがドレアが白人でエレノアが黒人だったらきっとこんな安直なシスターフッドでは許されないはずで…。
このあたりはシスターフッドものの現在の課題のひとつなんでしょうね。
他の映画だと『Zola ゾラ』など人種構造に着目してシスターフッドの在り方を批評するものもあるし…。

でも本作が良いのはわりとクィアを包括している点で、エレノアが同性愛関係をラストできっちり深めるのもそうですし、リベンジを持ちかけられる場面で「やっつけてくれる人がいればいい。始末人みたいな男か女かノンバイナリー」としっかりバイナリー規範に依存しない会話をしており、エレノアの包括性重視の意識があるおかげでさりげない安心感が心強かったです。
こういう小さなセリフでも一部の人は安心するものなんです。
恋愛伴侶規範が濃いのはイマイチだけど。

『リベンジ・スワップ』は青春学園モノの復讐ストーリーとしてZ世代対応のバージョンアップを見せた一作でした。

ストーリー 4
演出 4
音楽 3
印象 3
独創性 4
関心度 4
総合 3.6