ルイまる子

ロスト・キング 500年越しの運命のルイまる子のレビュー・感想・評価

4.0
バラ戦争で命を落としたリチャード3世について、説明するのもおこがましいのだが、一応まる子はイギリスの歴史が専門なので少しは知っている。だから本作はズバリ!私の夢見る話である。仕事も何もかも上手くいかない背骨が萎縮する持病を抱えた中年女性フィリッパの面前に悪名高いリチャード3世が15世紀そのままの姿で現れる。彼女はリチャード3世の名誉回復に立ち上がりなんと、彼の汚名返上するところまで果たした。歴史家でもなんでもないアマチュアの素晴らしい主婦の実話だ。


わかる〜もう歴史上とんでもない汚名を着せられ、後の世から悪魔のような扱いで罵倒され続ける歴史上人物は多い。本作でエジンバラでの元夫とフィリッパのこのような会話があった。「人間には善人と悪人の2種類が居るのではなく、殆どはその間だ。」「マザーテレサも時々はミルクの蓋を締め忘れただろうし、チンギスハーンはゴミを見つけたら拾って捨てる事もあっただろう。」その通りで、歴史はその時代の勝者によって塗り替えられ、敗者を悪人と決めつけ、コテンパンにやっつけ、捏造した数々の疑わしい逸話で辱めレッテルを貼る。歴史研究者の多くは、英雄ではなく、過去の「悪人」や(実は功労者の)「名も無い人」の名誉回復したくて努力されていると思う。


さて、チューダー朝のヘンリーは激闘でリチャード3世に勝利し永年のバラ戦争を終わらせたが、同時にリチャード3世のヨーク朝は終わる。まずそもそもノルマン・コンクエストに遡るがノルマン朝にアンリという人が継いだあたりでアンジュー帝国と言われるフランスの領地を半分くらい?イギリスが所有していたすごい時代があった。12世紀だが、その人達一族がプランタジネット朝で、ヨーク朝とはプランタジネット朝の分家であり、より正当な王位継承権があるとし異論を唱える。リチャード3世はその王位を継ぐ可能性のある自分の叔父の子供二人をロンドン塔に幽閉したり、また他の王位継承の可能性のある人を次々と殺害したと言われている。それらの迫害から逃れヘンリーが最終的にリチャード3世を倒した。


リチャード3世は大悪人として描かれているが、実は違うという話。背骨が曲がったせむしでとんでもなくひねくれた悪事ばかりで、さらにシェイクスピアの戯曲でも最大級のヴィランとした描き方から世の中には広く悪人というイメージが付いていた。全く歴史家でもないフィリッパが、自分の人生の不運の数々や言いがかりと、リチャード3世が受けたスティグマが似てると感じたところから、独学で遂に今まで不明だった亡くなった場所を特定し、レスターという地域で考古学者らと協力し、せむしの特徴を持つリチャード3世の遺体を2010年、発掘したという夢のような実話だ。


プランタジネット朝のアンジュー帝国の時代に登場する「ジョン王」が史上最大のおバカ王とされているが、そうそう、ダメ夫の名前が「ジョン」だった。この人のせいで多くの領地はフランスに奪われ、更に例のマグナカルタでも有名なジョンだ。しかし、結局「おバカ」とレッテルを貼られた件も本作では彼女の夫を通じて「ジョンはバカではなかった。」と否定した。夫はちょっとダラしないが、実際は誰も信じないような狂気としか思えない妻の話も信じてくれた。いいところもある。まぁ…筋力が萎縮する持病を持つ奥さんの激務を眺めつつ、同居し他の女性と付き合い、まぁでもその逢瀬をフィリッパも認めてたし🇬🇧は特に先進的で、このファミリーが納得していればそれで良いのだろう。イギリスでは普通かもしれない。心のツカエが取れる面白い作品でした!
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