トーリターニ

正欲のトーリターニのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
5.0
SNS等の個人メディアの台頭にともなって多様なセクシャリティはもちろん多様な価値観が顕在化した昨今における「正しさ」とは何か。
それは重大なことに誰もが明文化できない感覚の問題であるがゆえ、「普通」や「一般」などといった「規範」などと自己との比較に至らしめるものにもなってしまった。

自分は何者なのか、正しいとはなにか、間違いとはなにか。
事実は存在せず、認識のみ存在する。
認識の積み重ねこそがいわゆる「規範」であり、そういったメタ認知的言及が主題として据えてある。

「自分が話しているのかと思った」という台詞があったように、息苦しさを的確に表した台詞・独白をこぼす新垣結衣や磯村勇斗に感情移入を感じ得ない。

作中では単なる多様性への賛同ではなく、ダンスに関するシーンでは正しい理解のないまま多様性を取り入れるということの危うさ・無礼さもしっかりと指摘されていた。
翼賛的に時代に迎合するのではない自らすらを疑ってしまう感覚の描き方も見事。

正しく普通で在ることへの憧れ、自らが「異常」だと認識せざるを得ない哀しさは観ていて本当に身をつまされる。
だからこそ、本作を良い映画だと称賛するには勇気がいる。自分が間違っているのではないだろうか、とても不安である。そもそも間違いとは何か、何が間違いなのだろうか。今の自分に最も必要な映画だったように強く感じた。