トーリターニ

哀れなるものたちのトーリターニのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
5.0
面白すぎる。早くも今年ベストの予感。

ものすごくカントっぽい印象を受けた。
さらにはギリシャの監督ということがうまくは言語化できないけれども作風に対する妙な腹落ちがあった。

大人の肉体に右も左も分からない赤子の脳が備わって始まったベラの人生は、「理性」を持たないことから、自我や本能が萌芽するにつれ「経験」を欲するようになる。さらには大人の肉体があるからこそ大抵のことは望めばすぐにでも経験できるのである。

そうして様々な体験を経ることで加速度的に理性が育っていく過程はキャラクターとしての魅力に成立するのは勿論、周囲のあらゆる要素に逆転を及ぼしていく。
監禁生活からの解放もあれば、男女関係のパワーバランスの転換、本能的言動から理性的言動への成長、過去の自己からの脱却など例示するならば枚挙にいとまがない。

ヴィクトリアという肉体に宿るベラの精神、まさに心身二元論的な一つの存在はその欲求も本能的なものと理性的なものとで分かれて描かれていた。

さらには明らかな女性解放的描写も多くて現代的、嫌味もなくバランス感覚が非常に良かった。
冒頭ではベラをはじめとする改造動物たちが"Poor Things"かのように見えているものの、終盤以降は理性や教養を持たない者たちや男性性、身分特権を振り翳す者たちがまさに"Poor Things"かのように見えてくる。ベラは自らの肉体(ヴィクトリア)における原罪を受容した上で、自らをも「哀れなるもの」と認識しながらも気丈に生きていく道を見つけている。
こういった一貫した逆転構造がまさに面白く、理想的な人生観が見える美しいラストだという印象を覚えた。

とは言うものの、やはり本作最大の魅力はなんといってもエマの演技と気合。
本当に仕草や表情の作り方が圧巻、別格だ。
そしてスタイル異常すぎ、経産婦の身体じゃない。ベッドシーンはもうエロいよりすごいが勝ってた。本当に好き。

ウィレム・デフォーやマーク・ラファロといったキャスティングを含め、自分好みの要素で埋め尽くされていた映画で、鑑賞後には"Furious Jumping"よろしく今にも飛び跳ねそうな気持ちだった。