はなこたちゃん

正欲のはなこたちゃんのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
5.0
改めて
他者を理解することの難しさを知る

多様性を認め合おうとか
大風呂敷を広げてみたところで
やっぱり皆が
真に理解し合うことは
無理なのだと思う

趣味嗜好や性的嗜好に限らず
価値観や生活環境、容姿、病気等など
それぞれの考え方や境遇を
全て理解し認め合うのは難しいし
人知れず自己否定感を強め
生き辛さを感じている人は
少なくないのではないだろうか

本作の様な特殊な性的嗜好の存在も
検察官・寺井啓喜(稲垣吾郎)が
無意識に
『あり得ない』
と、言った様に
私もこの作品に出会わなければ
そもそも考えたこともなかったし
他にも、
もっと知らないことが無限にあって
そしてそのことで
苦しんでいる人がいることすら
思い至らず
無意識にその人たちを
傷つけ苦しめているのだろう


特殊な性癖であるが故
誰にも理解されない
同じ思いや悦びを
誰とも共有出来ず
孤独に生きてきた
桐生夏月と佐々木佳道


この2人が
恋愛感情とは違うけれど
互いに必要としあい
絆を強め
少しずつ生きることに
希望を見いだす

そんな2人の
自分達以外の
マイノリティの人に対して発する
『独りでなければいいね』の優しさ
にハッとさせられる


例えばある人の言動が
善意によるものだとしても
法的だったり、価値観の違いから
受け入れられないことだってある

人は皆
自分を受け入れてくれる
誰かを求めるし
認めてもらいたい

私達が生きていくなかで
自分の考えや信念を
貫き通す支えになるもの
そして
希望や喜びを感じ生きて行く為には
共感し分かち合える
他者の存在が必要なのだと痛感する

ラストシーンの

『私は居なくならないから』

この揺るぎない一言の台詞は
生き辛いこの世の中の
拠り所、希望の様に力強く響きました


磯村勇斗さんは『PLAN75』『渇水』『月』そして本作品と社会的テーマを扱う難役をこなされていて
何れの作品も『見たい』ではなく
『観たい。観なければ。』と思わせる

観る側にとっても、そして制作する側にとっても信頼度の高い、素晴らしい俳優さんだなと感服。

そして新垣結衣さんのキャスティングも大成功だったと思います。