netfilms

aftersun/アフターサンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.0
 陽光煌めく中で普段は一緒に暮らしていない父カラム(ポール・メスカル)とずっと一緒だったソフィ(フランキー・コリオ)の思い出はヴァカンス旅行でバッサリと切られている。31歳になる2日前だからこのヴァカンスの途中に31歳となった父の表情はあの頃はわからなかったが、どこか曇っている。それを31歳になった主人公が回想する。PanasonicのminiDVで撮られた映像は90年代のホームカメラの画質で、普段一緒に暮らさない父親への気恥ずかしさと人懐っこさとが同時に顔を出す。父親も普段離れて暮らす娘への精一杯の愛情を隠そうとしない。観て最初にぱっと思い付いたのはソフィア・コッポラの『SOMEWHERE』だ。あちらはスティーヴ・ドーフ扮するハリウッド・スターの元に前妻と暮らすエル・ファニングが現れる。今作はトルコの何だかよくわからない観光施設の中で全てが事足りる。11歳と言えば思春期真っ只中だから子供によっては離れて暮らす父を疎ましく感じることもありそうだが、ソフィはそんな素振りを見せることなく、父カラムによく懐いている。2人の親愛の情を一番感じる場面がまさに今作のタイトルにもなった「アフターサン」クリームを娘のうなじからすぐ下にかけて塗り込んでやる父の柔らかい手触りなのだ。

 その手触りはもう今となっては肌で感じることは出来ない。ここで思い出すのはあの頃の父親の精一杯の作り笑いと去勢を張った娘へのサービス精神だ。予告編を観ていて私は父カラムは何かしらの精神の病を抱えているのだと思っていたが、監督のシャーロット・ウェルズはそうはっきりと断言もしていない。極論を言えば骨折した腕から雑菌が入り亡くなった可能性も捨て切れない。ホームカメラに映る父との応答には少なくとも、娘に見せる部分に関しては精一杯取り繕ってはいる。かなり無理している。だが31歳になった娘があの頃の父を察し、記憶の補強をする場面がこれまた丁寧でひたすら胸打つ。カラオケでみんなの前でR.E.M.の『Losing My Religion』をデュエットしようと誘う娘に対し、本気で嫌がる父の姿が胸に焼き付いて離れない。もっとあの時、自分に大人の感情があればと今は思うものの、過去にしてしまったことはどうしたって変えられない。通過儀礼のような異性とのキスをフランクに話した時の父の反応が今でも耳にこびりついている。当時の湿度や空気感も含めて父との距離感の表現が並みではない。少女の通過儀礼映画としても今作を読み取ることは可能だ。然しながら点数を辛くしたのは映画内の殆ど全ての場面が回想場面であり、一向に現在から未来へ向かう気配がなく、終わりも最初から規定されていることに尽きる。とはいえ凄まじい新人監督の登場だ。
netfilms

netfilms