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aftersun/アフターサンのスのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
5.0
この映画をどこから話していいかわからないけれど、間違いなく人生変える映画だった

終盤になってソフィがパートナーと映し出された時、初めてこの映画で、冒頭から続くどうも歯切れの悪い映像の数々がソフィの断片的な記憶をつなげている作業だったことに気づく

そこからこの映画に深く向き合うと同時に、後の時間は想像で補完することの繰り返しだった

自分の道を信じて歩け、時間はある、酒を飲んでもドラッグをしてもちゃんと話をしてね

最低限で交わされる会話も、ソフィの記憶に残っている父との大切な思い出だったことを知る、護身術も太極拳も、重要だったことに気づいたシーンの数々を思い出すと胸が苦しい

肌の触れ合いや、唇の交わり、愛情を表現し合うシーンの多さは、両親が離別したソフィ自身の愛情への執着の表れだろう

ツアーでバカンスに来ているはずが、コインを出せないソフィの姿、お金がなくフリードリンクのリストバンドがない腕、食い逃げする2人、貧しさや、父の精神状態が副次的にこの映画に深みを出す、そういえば子供の頃って不思議と裕福な友達とか貧しい友達のことってわかるもんだったな、って

記憶を繋ぐ映像がそれぞれ美しく、見入ってしまうわけだが、それぞれ角度や感情によってカメラを使い分けていたと知り納得した、それほどまでに映像の持つ力が強い映画だ

編集のうまさもさることながら、ある種実験的なハッとするシーンがあった、鏡とテレビとビデオカメラ、そして本人たち、多角的に撮られ立体感が生まれたあのシーンは、これまで見たことがない映像であり、それでいて自然なのだから映画館で観られたことが嬉しかった

こうしたあまりに良い映画は、途中からどうやって終わらせるのかを気にしてしまうのだが、ビデオカメラを挟んでソフィと父とが映し出されることになり、この映画ではビデオカメラを通して時間が定着していることを実感できる秀逸な終わり方だった

それぞれ個人で家族の思い出の記憶のされ方や、振り返り方は違うだろう、そして自分はどうだったのかと問いかける、間違いなく家族の普遍の愛がもたらす救いの光が主題だったように思う

ただ、それでいて最後に「愛という言葉は古い、けれど君に勇気をくれる」とダンスされたら涙が出てしまった

この映画に日焼け痕の感触ってタイトルつけられたらもう敵わない、日焼けした痕を見て初めて太陽の強さに気づくように、なんだって後になって大事なことに気付かされるんだよきっと

この作品が日焼け止めを優しく塗る父の姿を思い浮かべた後にアフターサンとタイトルをつけたのか、アフターサンのタイトルが頭にあって日焼け止めを塗るシーンを多用したのか、めちゃくちゃ気になる

何かが起きそうな予兆だけで映画が進むと同時に、何かが起きた余韻に突如襲われる、アンビバレントな感情

こんな映画が観たかったし、人生変える映画に出会うために映画館に通っていたんだった
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