ヨーク

神探大戦のヨークのレビュー・感想・評価

神探大戦(2022年製作の映画)
3.8
未体験ゾーンの映画たち2024の10本目です。
今年の未体験ゾーンは全24本らしいのだが、とりあえず半分くらいは観られそうかなぁという感じですね。まぁそういうわけで全部観ているわけではないのだが、この『神探大戦』は今年の未体験ゾーンの映画たちの中では今のところ一番面白かったと思いますね。なんというかな、あらゆる意味で一番不特定多数の人にオススメできる映画ではないかなと思う。ちなみに続編ものらしいんだけど初見の俺でもそこまで置いてけぼりになることはなかったので、まぁそこはあまり気にしなくてもいいんじゃないかなと思う。
お話は連続殺人鬼を追うというのがメインストーリーなので、いわゆる刑事モノではあるのだがその中でもサイコサスペンス寄りな感じではあろうか。主人公はかつて神探(神の如き捜査官、という意味らしい)と呼ばれた元刑事なのだが精神を病んで退職して傍から見れば事件現場に現れては警察の捜査を邪魔するだけにしか見えないヤバイおじさんに成り果てていた。そんな折、香港では連続殺人が行われていたのだが一見繋がりのないそれらの事件の背後にあるものに気が付いた主人公は警察の捜査に介入していく…という感じのお話ですね。
これが中々よく出来たお話で、過去の事件と現在の事件とかが結びついて一つの物語になっていく様は中々見事ではあった。その辺は正に娯楽映画という感じで面白く観られたのだが、しかしそこは難もあって、序盤で紹介される複数の事件のエピソードが最終的にはいい感じにまとまるのだが、冒頭の時点では本当にたっだエピソードが羅列的に流されるだけなのでそれがどのような本筋になっていくのかが非常に分かりにくくて正直取っつきにくい感じはあった。さらにそこに輪をかけて主人公の特殊能力(いわゆるサイコメトリー的な超能力を持っている)の描写も悪い意味で説明描写が少なくていまいちピンと来なかったのでそこも不親切な感はあった。
ただ、それらの難アリな部分もあまり気にならないというか、もっと言えば気になる暇もないというのが本作だったのである。もうね、この映画ずっとテンションが高くて次から次へと新しい事態がやってきて息つく暇もないほどにお話がどんどんと転がっていくんですよ。それでいて脚本が破綻しているとかいうこともなくちゃんとしたオチもつくので大した映画ではあるのだが、しかし最近はそういう映画多いよなぁという気はする。客を飽きさせないためではあるのだろうがとにかくノンストップで事件が起きたり新たな敵が出続けるのでハラハラしながらスクリーンを観続けてしまうのだが、裏を返せばそこには緩急もなければ情緒もないのである。緩急でいうならずっと急急急と続いていくので、物語が停滞するという意味ではダレないのだが、そのペースに慣れてしまうと“常に何かが起こり続ける”ということそのものに慣れてしまって急展開が普通であるように思えてしまうのである。そして情報もないと書いたが、そうなってくると当然登場人物の感情も記号的に描かれこそはすれその深い部分まで触れるというようなことはない。
こういう傾向の映画は最近多い気がしていて、個人的には昨年観た『オオカミ狩り』なんかもそうだったし、これは未見だが『ゴールデンカムイ』なんかもうそういうタイプの作品ではないかなと思う。別にそういうノンストップな展開の作品が悪いというわけではなくて、むしろそれは脚本も撮影も演出も高レベルでないと実現できないことではあるので完成度の高い作品だとは思うのだが、そういう作品ばかりが持て囃されるようになるとちょっと寂しいなぁという気もするんですよね。俺の記憶によるとそういう常に見せ場が続く作品の始祖というか、初めて高レベルな完成度でそういうタイプの映画として世に出たのはキアヌ・リーヴスの出世作である『スピード』ではないかなと思うんだけど、俺『スピード』大好きですからね。ただ、スピードに豊かな人間ドラマが描かれているかというとそうじゃないと思うし、それはこの『神探大戦』も同じだと思う。
昔からジェットコースター・ムービーという言い回しはあるけど、それは非常に刺激的で楽しいけどやはりトレードオフ的に情感や詩情といったものは失われてしまうと思うんですよね。そこは優劣とかではなくそういうものなのだとしか言えないと思う。なので本作は文句なしに面白くはあるんだけど、面白いだけの映画という感じもするんですよね。そこは褒めでもディスりでもなく、中々並び立てられないものなんだよ! ってところです。
しかし次々と転がっていく展開は面白いし、上記したように『オオカミ狩り』みたいな投げっぱなしではなくてちゃんとオチが着地できてる物語になっているのもえらい。最終的にはかなり満足な映画観た感もあるので、今年の未体験ゾーンで一番不特定多数にオススメできる作品という評価になります。あとこれはどうしてもネタバレになるので詳細は語れないが、香港から中国本土の政府への批判性も感じることはできたのでそこも好感ではある。
ずっとテンションが高いので疲れるし。刑事モノにありがちなホワイトボードに関係者の相関図とか地図とか張り出してのここまでのおさらいシーンやってよ! ってくらいに込み入ったお話になっていくのは難点ではあるが、かなり面白い娯楽映画ではあると思いますね。これ未体験ゾーンでやるのはもったいないよ! 一般上演しろよ! というくらいは出来がいいのでオススメです。別に大好きというほどのものではないが間違いなく面白いので、機会があれば是非。
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