ヨーク

ゴッドランド/GODLANDのヨークのレビュー・感想・評価

ゴッドランド/GODLAND(2022年製作の映画)
3.7
面白いか面白くないかで言えば面白い映画だったんですけど、結構寝てしまったので自信を持ってオススメできるかというとそこはどうかなー、という感じの『ゴッドランド』でした。特に序盤から中盤は大体寝てたからね。その辺でかなり大事な描写があったとしたら俺は完全に観逃してしまっている。ま、それくらいゆるゆるな感想文だと思って斜め読みしてください。とはいえお話自体はかなりシンプルなものだったので寝ながら観てもそこまで取りこぼしてはいないと思う。
お話。時は多分19世紀半ばから19世紀末とかその辺り、日本でいうなら幕末から明治の前半くらいであろうか。銀がどうのと言っていたからダゲレオタイプのカメラが普及したくらいの時代だろう。その時代アイスランドはデンマークの所領だったのであるが、距離も遠くデンマーク人の感覚的には未踏の地だったであろう。本作の主人公はキリスト教の牧師で、そんな遥か先の外国であるアイスランドへ布教の旅に出てアイスランドに教会を建ててこいというミッションを受けて旅立つ…というのが本作のストーリーである。
俺の適当な世界史知識ではバイキング花盛りの中世の頃にはアイスランドはすでにキリスト教に教化されていたんじゃないかなー、と思うので教会なんてとっくになんぼでもあるだろ、と思ってしまうのだが俺の記憶違いか映画の都合なのかは分からない。ま、とにかく本作は北海を渡ってアイスランドに教会を建てようとする若き牧師の物語である。
これはあれだな、フレームの内側と外側の物語だと思ったね。ぶっちゃけ物語としては上記したもの以外にはそんな大きなドラマは展開されない。大まかに本作は二部構成になっていると思うのだが前半部分はアイスランドの陸路を行く過酷な旅で、後半は目的地の町で教会を建てながら主人公とその周囲のミニマムなドラマが描かれる、というもの。ちなみに俺ががっつり寝たのは前半のアイスランド道中のところでした。いやね、このパートがもうなんつうか大自然のドキュメンタリーみたいでセリフもほとんどないままに牧師一行が歩き続けるだけの映像が流れるんですよ。一応、通訳の人が死んだり現地の案内人がデンマーク嫌いで主人公と反りが合わなかったりということは語られるが、そんなのどうでもいいよと言わんばかりの圧倒的で寡黙なアイスランド・ネイチャーが前半パートの主役であるのは本作を観た人ならば誰もがそう思うことであろう。
んでその畏怖すべき圧倒的な大自然の旅が余りにも過酷すぎてぬくぬくとヨーロッパで育ったおぼっちゃんな牧師は肉体にも精神にもどんどん変調をきたしていくのである。そこが本作の肝であり、上記したフレームの内外を描いているというところであると俺は思う。
つまり主人公は地理的にも文化的にも宗教的にもあらゆる意味でヨーロッパというフレームの外側であるアイスランドに投げ出されるわけである。そこで主人公がフレームの外側へと自己を拡張してアイスランドに適応できるのか、ということが本作では語られていると思うのだが、まぁネタバレに配慮してやや伏せながら書くと、ちょっとこの人にお外の世界は厳しかったかもなーという感じになるのが本作の大体の展開であったと思う。だってね、上でも少し触れたが本作の重要なモチーフとしてカメラというものがあるのだが、この主人公はデンマークでは考えられないようなアイスランドという世界にやってきても人も風景もそのカメラのフレーム内に収めようと必死なんですよ。いやまぁ写真を撮るということはそこにあるものをフレームの内側に閉じ込めることではあるんだけど…。でも無理だって。このアイスランドという地はそんなヨーロッパ基準の価値観や宗教観の中には収まらないんだって! ということに本人も薄々は気付いていそうなのだが、しかし彼はその世界観の中から抜け出すことができない。いや、明らかに神を喪失してしまっているように思える後半の主人公は最終的にはキリスト教的世界観のフレームの外側にいたのかもしれないが、それは多分自分の意志で外部へと出たのではなくて、必死に守っていたフレームがぶっ壊れてしまって否応なくその外部へと放り出されてしまったという感じだったのではないだろうか。
ごく一般的な認識で言えば教会というのは単なる建物である。だがそれは神の家でもある。作中で非常に印象に残るのは骨組みだけが完成したがまだ壁のない教会内で結婚式が行われるシーンで、そのときに主人公の牧師は「まだ教会が完成していない」ということを理由に牧師として新郎新婦を祝福することを拒むのである。これは教会の内と外を隔てる壁がない、つまりそこにフレームがないから自分は神の代理として何もできないのだ、ということであろう。
本作ではオープニングの教会のシーンから空間を切るように建物内の柱が画面を割っていたり、印象的に背景に窓枠があったり、開かれたドアの四角の中に人がすっぽりと収まっていたりまたそこからはみ出していたり、というあらゆる意味での外郭としてのフレームが描かれている映画だったと思う。そういったことを踏まえて考えると、本作の前半でこれでもかというほどに描かれたアイスランドの大自然だって所詮映画館のスクリーンを通して観ただけじゃ何の意味もないよ、と言われているような気もしてしまう。ラストに印象的に描かれる馬の九相図だってフレームの外側から見たら匂いも何も感じないものでしかないのだ。それで分かった気になってんじゃないよということがこの映画で言いたかったことなのかもしれない。
まぁ本作は実際にアイスランドくんだりまで行っても自分の世界観を広げることができなかった男の悲しみの映画だったのだと思うと、そこにある断絶の深刻さが浮き彫りになって映画なんていくら観ても何の足しにもならんよねっていう皮肉さえ感じてしまうのだが、まぁそれでも何も知らないままでいるよりはやっぱ観た方がいいとは思うので皆さま興味があれば『ゴッドランド』観てはいかがでしょうか。まぁぶっちゃけ映画としては山も谷もなくそんなに面白いものでもなかったなと思うのだが、色々と思いを馳せられる余地のある作品だったとは思いますね。
個人的には雄大な大自然はもちろん、犬と馬がとてもとてもかわいいかったので面白い映画でした。あとディスコミュニケーションなおっさん同士の触れ合いとかもあるのでそういうのが好きな人は思わぬ萌えポインツがあるかもしれません。
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