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NOCEBO/ノセボのナーオーのレビュー・感想・評価

NOCEBO/ノセボ(2022年製作の映画)
5.0
社会派ホラーならぬ"搾取ホラー"

ぼちぼち結婚を考え始めたカップルが新居の内覧に訪れたけど、その住宅街から抜け出せなくなる… という超不条理で恐ろしい映画だった『ビバリウム』のロルカン・フィネガン監督最新作。

確か『ビバリウム』を映画館で観た日は2021年の3月19日金曜日。なぜ覚えているかと、その3、4日前に当時付き合っていた彼女の浮気、しかも相手と結婚することが発覚して丸3日何も口にできなかったほどめちゃくちゃ落ち込んでいた週の金曜日に気分転換で『ビバリウム』を観に行き、さらにメンタルをやられた思い出があります笑

その『ビバリウム』の監督最新作ということで、さ〜 今回はどんなゲスい話を見せてくれるの〜??と覚悟した上で鑑賞しましたが、不気味で得体の知れない恐ろしさという『ビバリウム』に通じるところもありましたが、恐怖の先にあるものは予想外なほどの社会派テーマであり、これはこれで忘れ難い。むしろ『ビバリウム』のときよりもあらゆる面が洗練された傑作でした。

パンフレットに記載されている通り、資本主義が消費主義へと移った現代社会。
安く仕入れて高く売るためにはより早くより安く製造しないといけない。そのためにはアジアや南米の設備の古い工場などを利用して最低賃金で大勢の労働者を働かせる。この流れによって製造現場の労働環境は劣悪になっていく。

実際、2015年にマニラで起こった履物工場の火災。安価なサンダルやスリッパを生産していたこの工場の従業員たちは悪臭を放つ化学薬品に囲まれ、最低賃金以下の給料で働かされ、火災防止のための安全基準についても、何も知らされていなかったという。しかも出入り口はたった一つ。その結果、死者72名…

そのような事実を踏まえて本作を鑑賞すると単純なホラー映画ではないことに気づき、慄然とさせられる。

前作『ビバリウム』は搾取される側の話だったのに対して、本作『ノセボ』は搾取された側の人たちの強い怒りが描かれた社会派映画だと思いました。故に前作『ビバリウム』と比べると因果応報な結末。言ってしまえば"スカッとする"映画なので、超絶理不尽で不条理な『ビバリウム』がキツかった人にもオススメできる映画でした。

エヴァ・グリーンとマーク・ストロング。特にエヴァ・グリーンが良かったです。中盤のとある彼女の"行動"。それまでは不安定ながら優しい人かと思って観ていましたが、その場面での子供に対しての接し方。その乱暴な接し方から彼女が一気に"悪"だと分かる見事な演技と存在感。

そして本作最大の強烈な存在感を発揮しているフィリピン人の乳母"ダイアナ"。演じるチャイ・フォナシエルの得体の知れない存在感が強烈過ぎる。彼女の"目的"は主人公夫婦からすれば恐ろしいけど、ダイアナからすれば…… 結末は恐ろしくも悲しい、そして別の二人にとってはロマンチック。

そして最後は継承される……
見事な結末でした。

ちなみに"ノセボ"というタイトル。
どういう意味なのかを鑑賞後に調べると、まさにそういう話過ぎて笑ってしまいました。
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