うえびん

ゴジラ-1.0のうえびんのレビュー・感想・評価

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)
4.4
鎮魂

2023年 山崎貴監督作品

観たいと思いながら、機会を逃していたところ、近くの劇場でアカデミー賞受賞記念の上映があって、ようやく観ることができました。

ゴジラの想像以上の迫力に圧倒されると共に、敗戦後の日本、今に続く私たちの国について深く想いを巡らされました。山崎監督の作品は初めてでしたが、過去の作品を眺めると、第二次世界大戦や昭和の時代を舞台にした作品が多いようです。本作を観て、時代考証やその時代を生きた人々を丁寧に描いてこられたんだろうと想像できました。

今年のアカデミー賞は、作品賞に『オッペンハイマー』(クリストファー・ノーラン監督)、視覚効果賞に『ゴジラ-1.0』が選ばれました。

第二次世界大戦の終戦から78年。戦勝国・米国の核兵器の開発者を描いた作品と、敗戦国・日本で核の被害に遭う無辜の民を描いた本作が奇しくも同じ年に上映され、同じ年に賞を与えられたということに何かを感じざるを得ません。

『原爆ー私たちは何も知らなかったー』(有馬哲夫・著)


私がもっとも心を痛めるのは、広島の原爆死没者慰霊碑に「安らかに眠って下さい過ちは繰り返しませぬから」と刻まれていることです。素直に読むと「日本は誤った戦争を仕掛けた結果、原爆を落とされました。二度とこのような過ちは犯しませんから、やすらかに眠ってください」という意味にとれます。つまり、日本は戦争を仕掛けたので罰として原爆を投下されましたが、もう戦争はしませんから原爆の被害に遭うことはないでしょう。ですから安らかに眠ってくださいということです。多くの日本人はそう理解するのではないでしょうか。

広島市はこの碑文の意味を「原子爆弾の犠牲者は、単に一国一民族の犠牲者ではなく、人類全体の平和のいしずえとなって祀られており、その原爆の犠牲者に対して反核の平和を誓うのは、全世界の人々でなくてはならないというものです」と説明しています。

私は何度も読み返しましたが、そのように理解することはできませんでしたし、今もできません。普通に読んでとれる意味にしか取れません。

つまり、日本は間違った戦争を仕掛けたのだから罰として原爆が使われたのだということです。これはアメリカ側の論理ではないでしょうか。これだと、広島・長崎の被爆者は、罰せられたということになってしまいます。何の罪も犯していないのにこんな自虐的な受け止め方をしていいのでしょうか。(中略)

そもそも私たちが持っている原爆についての認識は、最初から、根本的な部分で間違っていたのではないでしょうか。つまり、百歩譲って間違った戦争を仕掛けたとして、そのことと原爆を投下されたことは関係がないのではないかということです。原爆は戦争を終わらせるために使われたものでさえないかもしれません。(中略)

私たちは、これまで占領中にアメリカ軍によって植え付けられていた自虐的歴史観のせいで、アメリカ側の原爆プロパガンダを信じ、きわめて根源的な問いを発することをしていませんでした。この歴史観から脱するためには、これまで歴史的事実と思われてきたことを疑い、問うことがなかった問いを発し、それに対する答えを得る必要があります。


強者の巧みなプロパガンダに対して、真っ向から挑んでも力では敵いません。山崎監督は、ゴジラを描くことについて、時代性に合わせた物語を考えたと言われていました。

占領者と被占領者の間に空想の怪獣を絡ませることで、巧みに現代の世界情勢とその根源が描き出されているなぁと深く感じ入りました。ゴジラの日本襲撃に際して、アメリカ政府も日本政府も何もしません。日本人の一般市民が自分たちで立ち上がり、自分たちで戦います。

本作のドラマには強引な展開も、セリフには説明的な言葉も散見されました。鑑賞直後は、それを気にさせないくらいゴジラの迫力が上回っていたんだと思いました。

その後、いろいろと思いを巡らせ考えてみると、今を生きる私たちと、そのいしずえを築いてくれた先人への鎮魂が込められたストーリーに深い感銘を受けたのだと思いました。
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