うえびん

華氏451のうえびんのレビュー・感想・評価

華氏451(1966年製作の映画)
3.9
本を焼く者は人をも焼く

1966年 イギリス/フランス作品

活字の存在しない未来の管理社会を描いたレイ・ブラッドベリのSF小説が原作。主人公は消防士のモンターグ。その職務は火を消すのではなく本を燃やすこと。約60年前のレトロなファッションやアナログな映像は逆に新鮮だった。

古くは、秦の始皇帝の焚書坑儒。近年では、ナチス・ドイツの焚書など、人類史上何度も繰り返されている時の権力者による焚書。そのような思想統制、監視社会が象徴的に描かれていて興味深い。

昨年、私たちの国でもKADOKAWAの翻訳本『あの子もトランスジェンダーになった -SNSで伝染する性転換ブームの悲劇-』が、特定団体や多数の人の反対運動に屈して刊行中止となった。“現代の焚書”として、SNS上では刊行中止の判断への抗議の声が上がった。

「焚書は序章に過ぎない。本を焼く者はやがて人も焼くようになる」

ドイツの詩人ハイネの著書は、ナチスの影響を受けた大学生らに焼き払われた。

本作に描かれる本の無い世界と本のある世界。互いを監視し合い疑心暗鬼に陥っていく暗い世界(ディストピア)と、互いを尊重し合い寛容になってゆく明るい世界(ユートピア)。

どちらの世界を目指したいかは自明だけれど、今ある自由が当たり前のことではないこと、自分たちで護っていくものなのだと、あらためて考えさせられた。油断大敵、ディストピアは、いつてもどこにでも訪れるのだと本作は警鐘を鳴らしている。
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