うえびん

市子のうえびんのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
3.3
思い出の…

2023年 戸田彬弘監督作品

杉咲花の独壇場。彼女が演じる主人公・市子は、複雑な背景から終始静かで言葉少ないんだけれど、内に秘めた強い思いを感じさせ、場面ごとに強烈な印象を残す。

脇を固めるキャストもみなよかった。だけど感じ入るものが多くはなかった。なぜだろう。

監督は、観終えてから調べたら『名前』と同じ監督さんで、あちらは小説が原作。こちらはご自身で脚本を書かれたよう。

『名前』も津田寛治演じる主人公は良かったんだけれど、周囲の人たちとの関係性の描き方に違和感が強かったのを思い出したら、本作も一緒だなぁと思った。

他者との関わりの中から、主人公のパーソナリティが浮かび上がってくる感じが薄かった。母と娘、父と母、きょうだい、友人、恋人…。市子は、その成長の過程でいろんな人と関わって、相手は彼女から大きな影響を受けるんだけれど、市子自身は変わらない。

変われない理由も想像することはできるんだけれど…。市子と相手、関係性の中での変化。そのバランスが不自然だなぁと感じてしまい、クライマックスの思い出の一場面に全く感情移入できなかった。

一番感情を揺さぶられたのが、長谷川と市子の母が対峙する場面だった。その二人の掛け合いが、一番関係性の変化が感じられたから。

それでも、杉咲花の場の空気を一変させ、周りのキャストをその空気に引きずり込んでしまう力は圧巻でした。
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