スコセッシフォールド全開

名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)のスコセッシフォールド全開のレビュー・感想・評価

4.4
櫻井さんは多分童貞だし、その童貞作戦の勝利で褒め倒したい。長年じっくり温めてきた灰原哀×黒の組織の確執。ドラマをストレートにやってくれて最高だった。これにミステリー要素を入れるほうがミステリー、というか。コナン劇場版(黒の組織関連回)はもうこのスタンスが結局ベストなんじゃないの?な大満足のジャンル映画であった。中途半端ではなく振り切っていれば基本的に面白くなる。ミステリーは二の次、いや五の次で真正面から黒の組織と対峙させ、全編に渡って緊張感を出し続ける。サブストーリーの殺人事件も勿論関係していますよ、逃しませんよ?が気持ち良い。心の安寧などない、何時でも日常は破壊されても当然だと思い込んで仕方がなかった灰原少女が優しさに触れ、素を出せるようになり、比護隆佑に恋をし、ようやく『生きたい』と思い始めた矢先の、今回の事案。人違い拉致ならまだしも、ほぼ確実に今ある幸せが失われる設定『パシフィック・ブイ』を持ってきたのがかなり意外で、どうなるのかヒヤヒヤしながら見ていた。勘弁してくれよ本当に。憎すぎる脚本が最高、ここ最近のシリーズで群を抜いて面白かった。

背の低い小1女子姿と子犬のように震える様子から弱き存在と勝手に認識していたが、今回1人の希死念慮女性と、盟友コナンを救ってみせたのは紛れもなく灰原哀であることに、1つの転換点を迎えたな、とワクワクな気持ちと寂しい気持ちが入り交じる。まずは推しが無事で良かった。
そして彼女の複雑な立場だからこそウルッとなるのが友達という存在。コナンとの一連の出来事もそうだが、蘭の咄嗟の行動、反射速度、窓からの飛び出しも良い。『哀ちゃんどこ?』の一拍置かないのが良い。そして歩美ちゃんとのハグが中々ぐっとくるわけだ。
18歳の甘酸っぱい恋とそれは叶わぬ恋という、ここでも複雑な事情をもつ灰原哀のキャラクターの哀愁具合を描けていて面白かった。一部界隈では炎上しているらしいが。

サブマリンで撒かれる際、阿笠は号泣するが、コナンの目に涙はない。海水が滴っている様子が涙に見える既視感のあるなんてことない演出なのに、かなりハマっていて良すぎた。彼の諦めていない確固たる執念がその数秒で現れていて、裏切られなくてまた泣いた。冷静になった取り調べのときに取り乱すのも素晴らしい。灰原哀誘拐シークエンスが実に見事だった。ビートル運転する博士の顔も劇画タッチで一段とカッコよくなっている。

エンジニア父狙撃シークエンスが残酷すぎて黒の組織らしく良かった。コルンの命令を執行するために手段を選ばないところ、その桁違いの判断速度がテンポ感を生み出し完成されすぎていた。あそこでキールの過去を挟むのも、シェリーの過去を挟むのも、攻め入る余地を作らず容赦がない。恐るべき芸当。さすがギャグ要員ではなかったウォッカさん。しっかり悪役だった。
ジンがいつもより怖い。声のトーン、髪のかかり具合、灰原哀への感情移入?一方で、ピスコ、アイリッシュの再来、今回も2択を外してくれて幸いというか、もはやファンサービス。『クソシステムじゃねーか』が好きすぎる。
ピンガさんはおっちょこちょい、ではなく99.9999%が見逃すミスにただ偶然気付かれただけなのがRUMの側近メンツ保っていて推せる。顔、髪型、スタイル、声、サングラス全てが合ってる。
子供向け、といえど説明ゼリフはやっぱりキツイ。キールのやつもやんわり聞いてほしかった。
音響がなぁ…。前方からしか音が聞こえてこないのは勿体ない。