シネラー

怪物のシネラーのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
5.0
是枝裕和、坂元祐二、坂本龍一
という製作陣から観たいと思っていた
本作をようやく劇場鑑賞。
是枝監督の作品を劇場で観るのは
本作が初だったのだが、
内容としても観ている身としても
感情が大きく移り変わっていく、
2023年のベスト映画候補だった。

我が子が担任教師から
虐めを受けたと訴えるシングルマザー、
訴えられた新任教師、
当事者となる子ども達の視点で
物語が展開されるが、
その三部構成から描かれる事実の先の
真実という展開に心苦しくなった。
断片的な情報から歪曲した事実を
それぞれの視点で描く事で、
事象の原因が明かされるだけじゃなく、
その登場人物達の優しさが
逆にあらぬ方向へと進むのが
胸を締め付けられるようでもあり、
登場人物の視点の移り変わりと共に
観客の心境も変化する
展開となっているのが良かった。
しかしながら、
人間の最大の長所が互いに
対話する事ができる点だと個人的に思うが、
本作は子ども視点に移り変わるにつれて
大人と子どもの対話がされていないと感じ、
結末に至っては色々な解釈もある中で
大人としては悲しく思った。
劇中で印象的に繰り返される
「怪物だーれだ」は、
相手を知る為の第一歩目の台詞のように
も感じさせる台詞だった。
個人的に劇中で最も印象的な人物は、
田中裕子が演じた校長だ。
決して周囲の視点からは善人とも
悪人とも言えない描写が多い人物だが、
傷ついた子どもに言葉と楽器を与える場面は、
劇中の大人達の中で最もその優しさが
子どもに届いていると思った。

個人的に作品に関する
不満点は全く無いのだが、
上映後に「結局、何なのか分からない」
と不満を言っている観客もいたので、
白黒はっきりさせたい人には向かない
映画なんだとは思った。
映画本編とは関係ない不満点としては、
上映中にゴソゴソと劇中の事象を
説明している話し声が聞こえ、
エンドロールが始まった途端に
喋り出す観客がいた事で
少々うんざりする鑑賞ではあった。
(絶対に再鑑賞しよう。)

本作における"怪物"とは
何なのだろうかと難しく思うが、
少なくとも劇中の登場人物においては
"怪物"と呼ばれる人物はおらず、
言うなれば人と人の視点を歪曲させる事
そのものに思えた。
事実や結果が主張通りでも、
それが真実とは限らないと感じさせる
素晴らしい映画だった。
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