きらきら武士

みなに幸あれのきらきら武士のレビュー・感想・評価

みなに幸あれ(2023年製作の映画)
2.8
清水崇監督の村ホラー三部作『犬鳴村』『樹海村』『牛首村』を観た続きで観に行った。

その清水崇、総合プロデュース。ロケ地は福岡県の赤村(あかむら)。下津優太監督も北九州市出身、福岡市在住とか。
タイミングもいいし、主演の古川琴音(伊藤潤二のマンガの主人公に似ている!)も気になるし、映画館へ行くことに決めた。

赤村は「源じいの森キャンプ場」という所に家族友人たちとキャンプで何回か行ったことがある。とてもいい所。キャンプ場の横の温泉館で、友人家族とくつろいだのもいい思い出だ。キャンプ場はエンドロールにも出ていた。河原のシーンかな。ほんの少しの場面だが、見覚えのある場所だった(気がする)。

以上、個人的雑記。
以下、作品の感想。

一応社会派ホラーという括りになるのかな。
舞台は九州のどこかの田舎(赤村ですけど)。
そこにある祖父母の家に行った孫娘が遭遇する信じがたい「決まり」。ところが祖父母も自分の両親もそれを全く自然に受け入れていて…。

まあ、設定としてはベタ。
コントとかにもよくあるタイプ。

実際、コント的なやりとりや笑いを意識したような演出がちょくちょく加えられていて、それがこの作品の「味」と言えなくもない。
また、俳優は古川琴音と松大航也以外は全員ほぼ素人で、それによって独特の「味」を出そうという狙いは容易に理解できた。

ただ、全体の完成度としては、うーーん、自分には演出意図がうまくハマったとは思えなかった。センスは少し感じたが、まだまだ荒削り過ぎて、それにどこか上滑り。
A24風?そんなん言われても。

何よりも脚本が弱いと思った。
核心部分の設定と説明にかなり無理がある。無理を無理矢理押し通す勢いもストーリーに無い。ただ「受け入れなさい」じゃあ、芸が無さ過ぎる。残念。

主人公だけ「そのこと」を知らないのが不自然。
そしてどうやってこの地域社会で「そのこと」が成り立ってるのか、警察沙汰にならずに済むのか、田んぼでそれを焼いても問題ないのか、その背景みたいなものは全部すっ飛ばしていた。いや、ホラーにそんなリアリティ求めんでもいいやん?とは思うけど、社会派風ならもう少し飲み込みやすく丁寧に描いて欲しかった。

強引さとにじむコミカルさには、ちょっと藤子不二雄Fのブラックコメディ短編を思い出したりもした。普通の日常の延長と思っていた世界が突然崩れて「異世界」ものになるのは「あなたの知らない世界」風でもあり。

そう考えると、短編なら勢いで押し切れたのかも。
そういえば、最初の企画応募段階ではショートムービーだったという話だ。長編化にあたり、話を織り直して拡げてみたはいいが、設定上の無理から生じた「穴」を上手く繕いきれなかった、そういうことなのだろう、と勝手に納得する。

おばあちゃん役の人の棒読みがすごかった。雑誌インタビュー記事によればこの人は、演技はほぼ初めてとのこと。でしょうね。むしろ安堵した。プロじゃない人の演技云々を評価しても意味がない。制作側の問題。
で、そのおばあちゃんの素人演技の茶番感・不穏感が、そのおばあちゃんの突出した気持ち悪さに一役買っているといえば買っているのだけど、ただ言わされて、やらされてるだけの素人の挙動を観続けなければいけない気まずさ、いたたまれなさ、寒さ、が気持ち悪さを上回ってしまった。一般のご老人に何やらせてんのよ…、親戚だったら泣くよ…変な罪悪感すらにじんで来て。安心して気持ち悪くなれなかった。

ただ、清水崇の村ホラー三部作の後で観るとかなり新鮮さも感じられて、祟りや呪いは全然登場させない社会派ホラー(一応)の中で、家族というごく身内の老人を徹底的に気持ち悪く描いた所には少し伸びしろみたいなものも感じた。現実社会では倫理的に絶対アウトな話こそホラー映画の鉱脈であれ。監督の次回作に期待したい。

一方で。
「誰かの不幸の上に幸せは成り立っている」とか「社会全体で幸せの総量は変わらない」、「地球上感情保存の法則」といった根拠の無い都市伝説的な空想に作品の核心アイデアを依拠するのには不安を感じた。普遍性に乏しいこの手のネタから話は拡がらないし深掘りもできない。というのが、清水崇監督の村三部作の話の薄さに都市伝説ホラーの終点を観たような気持ちになった今、思う所。

良かった点。
古川琴音。プロの俳優。
NHK大河『どうする家康』ですごいクセのあるお顔が異彩を放っていた所に、本作の宣伝写真、暗い廊下に立つ姿が伊藤潤二のマンガのキャラそっくりだ!と感銘を受けて観に行くことを決めたのだった。ポスターもすごく良い。ぶっちゃけ映画本体の出来を上回っている感すらある。
映画の中で、果たして彼女はとてもホラー映えしていた。ストーリーは微妙だったけど彼女の演技と存在は記憶に刻まれた。拍手を送りたい。
なお、映画は伊藤潤二のマンガと何の関係も無いので念の為。

更に古川琴音。
『どうする家康』では甲斐の女忍び役を演じていて、ヘタクソなのかわざとそうやっているのかわからないムズムズする台詞回しが衝撃的だった。私の心に絶妙な「痒さ」を残してくれた。どっちなんだ!?ドラマ後半は家康の家臣の妻になってシットリ落ち着いた演技を見せていた。どういう俳優なんだ?痒くてしょうがない!
そして本作を観て「痒さ」を思いっきりかくことが出来た。演技。存在感。立派な俳優さんである。記憶に刻まれた。ああ、すっきりした。
血まみれになるシーンでは、彼女の特徴的な顔つきから昔の『キャリー』のシシー・スペイセクをちょっと思い出したりもした。あそこまで血ザッパーではないが、血まみれな服で村を徘徊する彼女の絵面は凄みがあった。良き。それにしても血まみれでも赤村では誰も心配したり通報しないんだな(そんなわけあるかい)。
彼女には今後もホラーに限らず複雑な役での活躍を期待したい。

自分の満足度評価。
古川琴音ポイントに監督への次回作への期待そして地元贔屓を入れて、2.8としよう。
点数は低いが、人のコメントも熱心に読んでなるほどねえ〜と結果的にかなり楽しめている。
赤村に行く機会があったら聖地巡礼してみるのも悪くない。しないけど。

#2024 #12
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