Ricola

波紋のRicolaのネタバレレビュー・内容・結末

波紋(2023年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

『かもめ食堂』や『めがね』のようなのほほんとした雰囲気はありつつも、また違ったピリッとした緊張感を時折感じる。中年女性が家族などの社会的共同体で生きていくうえでの生きづらさや葛藤が主題であり、
社会問題を盛り込んでいても説教臭くならず静かに心を蝕んでいくさまが残酷かつリアルに感じた。


人と接すると心の中で波紋は広がっていく。でもそれを起こさないように、また自分の波紋を妨げられないように、依子(筒井真理子)は自分の殻に籠もって生きていた。

自宅のお手製の枯山水の庭に熊手で波紋を毎朝作る。決まりきった守られた世界で、この波紋は何かがぶつかったり落ちてきて生まれるものではないのだ。依子が自分の意思で作り上げ、そこに何者をも侵入を許さない。でも現実ではその波紋が崩されないなんてありえないことなのだ。
例えばプールに人が飛び込めば明らかに波紋が広がっていくように、人が本音でぶつかるときに、それぞれが生み出す波紋がじわじわと相手に渡っていくのだ。依子が家族と衝突するとき水面に立つ人物のショットに切り替わることでそれを説明的に示す。
人が発する波紋をわざわざ別世界にまで運んで視覚化する必要があったのかは正直疑問だが、この作品のタイトルでもある波紋の存在を強調したかったのだろう。

いい子ちゃんでいよう、自分の役目を全うしよう、我慢しようというような思い込みが、自分自身を枠にはめ込むことで苦しくなっている。人を悪く言うことだって別にいいじゃないか。
「やな女」「ほんと、やな女」と言って笑い合う。気のおけない仲のいい友人だからこそできるそんなやり取りが、ストレス発散はもちろん、自分の居場所だと認識し心のオアシスとなるのだ。

依子はせっかく作った枯山水の溝を、お隣の猫の侵入や夫に少しでも崩されるようならイライラしていたが、新しい友人ができ、自分自身のために行動するようになり、社会や周囲の人たちとのバランスがとれてきてからは、その自然な「乱れ」を楽しむようになる。
依子の力強いフラメンコのステップは、生まれ変わった彼女の新たなスタートを切った証である。
Ricola

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