トーリターニ

君たちはどう生きるかのトーリターニのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.8
全世界対象型の宮崎駿作品。理由は後述。

序盤で涙するとは思わなかった。
まさに拘泥たる泥濘に足を取られながらも進んだ先に道があり、狡猾な少年がそこに挑むことで見せる誠意は素晴らしい。「君たちはどう生きるか」というタイトルに相応しい成長の契機。
眞人の名前を聞いたキリコが「真の人か、どうりで死の匂いがするわけだ」という科白を発する際にも非常に胸が打たれた。

眞人の心根の遷移は傷の見せ方が非常に分かりやすかったが、話としては「和」と「洋」の変容がその全て。戦中日本が舞台と思いきやバベルの塔や神曲をモチーフとしたであろう設定は面白く、背景がモネに変わった瞬間は思わずニヤけてしまった。

また、宮崎駿独特の性嗜好もワラワラやヒミの花火のシーンでしっかり描かれていて気色悪くも面白かった。火は血のメタファーだね、だから血の繋がっていない婆様方は血の通わぬ母として、人形として、先人たちとして見守ってくれていたのだろう。

総括するならば、宮崎駿が様々な宗教教典をベースに新たな宗教教典を作ったなという印象。
宮崎作品のセルフオマージュもたっぷりあって、酒飲みながらこれを観て、これは何々のどのシーンのオマージュだ、なんて言い合うのも悪くないだろう。

Twitterかなにかで見かけた「今まで我々が観ていた宮崎作品は水割りだった」という感想には思わず首肯した。
詰め込みすぎて爆発的な面白さには繋がってない感があったけれど、良い作品だしどこか好きにならざるを得ないなと思わされた。