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ザ・キラーのSPNminacoのレビュー・感想・評価

ザ・キラー(2023年製作の映画)
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別に笑わせる作りじゃないのに、しれっとナンセンスなムードを演出するフィンチャー。チャンドラー風ハードボイルドな様式美を纏ってるけど、猫に餌をあげるエリオット・グールド(フィリップ・マーロウ)と違って、こちらは猫に餌をあげる女を見る側だ。その外し方で、続く展開もさもありなん。
尤もらしいモノローグには意味がない、殆ど間抜けなボヤキ。ストイックな暗殺者は、引き籠りの自意識過剰なThe Smiths者。身を隠しながら気付いて欲しいけど気付かれない。喋りすぎた男に話し相手はいない。待てども待てども「ゴドー」は来ない。でもオレだって人間なんだ…と、我思うゆえに我あり。心に荊を持つ殺し屋なのだ。
ノワールでサスペンスフルな緊張感も、微妙に外される。The Smithsの使い方、曲が何度も途切れるじれったさときたら!Please Please Please Let Me Get What I Want!ってキラーの心の叫びが聴こえてくるようだ。しかもGFは昏睡状態、手袋はめて大口叩く…って、ぜんぶ歌詞通りの、もはやジュークボックス・ミュージカルではないの。なんか一周回ってThe Smithsもこういう(どういう?)扱いになったんだなあ…。フィンチャーにはファン的な思い入れはあんまりなさそうで、しれっと記号に徹した使い方だ。
選ばれし標的に対して、名前もなく誰でもない殺し屋。バーガーやテイクアウトのコーヒー、ヨガやってリアリティ番組観てAmazonでポチる、世界のどこにでもいるありふれた「客」の1人。雇い主がいれば従業員がいて、仕事してればミスもある(出てくる人、犬もみんなそれぞれの仕事してるだけなのだ)。だけどああ、決して消えない明かりが欲しい…だって人間だもん。これマイケル・ファスベンダーの陰気なデッドパン(なんか痩せて乾燥して絞りかすみたいになってる)だから可笑し哀しいのだろうねえ。
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