やわらか

アンダーカレントのやわらかのネタバレレビュー・内容・結末

アンダーカレント(2023年製作の映画)
2.9

このレビューはネタバレを含みます

2.9。

この点数は自分としては明確に低い方なんだけど、有り体に言って原作のマンガへの思い入れに引きずられた評価。純粋な映画に対しての評価でないことを冒頭で宣言します。
(言っても詮無いこと書くなよという話だけど、今泉監督がツイッターで「当たり障りのない感想よりも辛口なコメントもらう方がいい」的なことを書いてた(うろ覚え)のでお言葉に甘えて。)

映画を観た後、上映時間の何倍もモヤモヤ考え続けているので思いついたトピック毎、徒然なるままに。

〇原作の扱い
まずはっきり書いておきたいのは、この映画は間違いなく原作にとても忠実に作られていた、ということ。厚めの単行本一冊のほぼ全部の要素を取り込んでいて(なかったの下着泥ぐらい?)、逆にストーリー的に足している部分も極小に抑えていたと。脚本としての調整というより監督の作品に対する思い入れの結果じゃないかな。

〇雰囲気
おそらく原作を読んでいた人が一番引っかかりそうなのが会話・日常描写のトーン。豊田さんのマンガは基本透明感のあるコマにとぼけた会話と表情で日常が構成されていて、本筋のシーンで劇的(別人みたいに)に表情が変わる。映画ではそういう要素が薄くて、予断なく観た人にはシリアスな映画と捉えられると思う。ここは、何を描くかの選択の問題で良い悪いではないけど、印象は大きく異なるところ。

〇かなえ
原作は約1年の連載の中で、カラっとした表面にある日常のかなえと、底面に沈殿したかなえを明確に分けていた。映画では、後半のシーンの比重が大きくなったこともあるのだけど、本来のかなえの雰囲気が日常にも現れていてあまり快活な印象は持たれないんじゃないかと思う。真木ようこさんはしっとりとヒロインを演じていた。

〇堀
原作の日常シーンの堀の飄々としつつも人を寄せつけない距離感が映画ではオミットされていた。井浦さんはガタイが良くて腰が太いので朴訥とした印象のキャラクターになっていた。(あの映画のキャラだとサブ爺と将棋しなさそう)

〇山崎とサブ爺、その他の人たち
もうリリー・フランキーさんは完璧に山崎だった。あの芝居がかったキャラを微妙なバランスで受肉させている。それに対して康すおんさんはご自身の個性も込めて寅さんぽい演技をされていたのだと思う。が、全体がシリアスなトーンの中で浮いていたように感じた。他、江口のり子さん演じる菅野も比較的フラットな演技で良かったかな(「釜焚きだけに後釜」の台詞が聞きたかった。。。)

〇登場人物の年齢について
原作の設定年齢は、堀が35歳ぐらい、かなえが30歳手前ぐらいだと思う。それに対して演じたお二人はそれぞれ10歳ほど上。これは結構大きい違いだと思った。自分はこの物語の結末を「他人と分かり合えない諦めを自覚した上での人生の再生」と捉えているけど、原作との10年の年齢差は現実の人生での意味合いとしてかなり違う気がする。永山瑛太さんだけ見た目が若くて逆にバランスが合ってないようにも。

〇背景
原作のコマの背景は、空に書き込みがなく真っ白でそれが独特の無機質な雰囲気を作っていた。また、『アンダーカレント』の水底に沈む回想シーンには黒のベタ塗りやそれに近い色が入って強い印象を与える。映像でもこの「背景のなさ」を同じように表現していたと思うけど、ジャンルの違いで無機質より少し暗い印象を与えていたんじゃないかな。

〇エンディング
まずはサブ爺の関わり方。あそこは原作通り唐突に表れる方が良かったのでは。お店から出ていくのとまた戻ってくるのは違和感。
そして、追加されたエンディングシーン。バス停で終わらなかったのは映像だと良い余韻が残る感じにならなかったからかな。年齢の話とセットだけど、これからの二人がどうなるかのイメージが自分はちょっと湧きにくかった。どういう意図で追加のシーンを選択したか、監督のお話を聞いてみたいな。

〇年代のこと
原作は2000年代半ばに描かれていて、携帯電話はあるけどスマホはない時代だったのだけど、現代劇として銭湯や過去のトラウマを日常で描く違和感がないギリギリのタイミングだった。ただ、欲を言えば10年前に撮って欲しかった。。。

【総評】
この作品の制作の話を監督のツイッターで知ったとき、嬉しいのと同時に自分が素直に観れるかちょっと心配になった。別作品として楽しんで、と豊田さんからのコメントもあったのだけど、こんな駄文を書くぐらい思いっきり拗らせてしまいました。すみません。

でもこの映画化をきっかけに、何年も読んでなかった原作を4回(直前に1回、観たあと3回)ぐらい読み返して、あと、知人に原作を貸してさらに映画にもつき合わせるぐらい無茶苦茶思い入れができてしまった。たぶん近いうちにあと1回は劇場で観ると思う。できれば監督が挨拶するイベント上映がいいな。

何を言いたいかというと、「アンダーカレント」を映画化してくれてありがとうと今泉監督に言いたい、ということです。
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