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マエストロ:その音楽と愛とのsayuriasamaのレビュー・感想・評価

3.9
偉人伝をコンパクトにまとめる難しさはところどころ感じるものの、ストーリーのつなぎに工夫があって感心させられる野心的な作品

Netflix先行上映作品。

ストーリーは
バーンスタインとフェリシアの出会いから幸せいっぱいの時期→白黒スタンダードサイズ

バーンスタインとフェリシアの困難期→カラースタンダードサイズ

バーンスタインの晩年(ストーリーの構成上の現在。この時制から、過去を振り返るようにインタビューされている)→カラービスタサイズ

と、ある特定の時期を抜き出すように紡がれている。白黒時代は、ミュージカルや舞台芸術のようにダイナミックに流れる映像が美しく、ワクワクするようなストーリーテリングだったが、中盤のカラースタンダード時代は、フェリシアを演じるキャリー・マリガンがどんどん険しくなるのが辛くなるほどのリアリティ。

バーンスタイン家の直面する問題は、バーンスタインほどの有名人でなくとも、(またバーンスタイン特有の事情でなくとも)夫婦間で揉めがちなあるあるが詰め込まれており、さながら人のホームビデオを見返しているような雰囲気。
偉人だからもっと想像できないような困難を描いてほしいと思うか、偉人でも一般家庭でも、大なり小なり問題を抱えてたのか、と共感するかで評価は変わりそう。個人的には、カラースタンダード時代の映像がコンパクトになりがちで、映像面でのダイナミズムが減ってしまっていたようでものすごく好きな作品というわけではないが…
なにか違う切り口で映画化しようというつくり手の姿勢は強く感じることができ、好印象。ただ、ストーリーとしてはかなり普通な印象をうけた。

また、折々のシーンにこの葉ずれの、ざわざわ〜そよそよ〜という気持ちの良い効果音と大木の映像が、リラクゼーションを産んでいて、伝記映画にしてはパーソナルな感情の揺れ動きに注目させる作りなっていた。(小津安二郎の静止画での切り替え効果のように、木の映像が差し込まれていて少し不思議な感じ。)

俳優陣も、ブラッドリー・クーパーはバーンスタインにそっくりのメイクと熱演で隙がなく、キャリー・マリガンの芯のある女性としてのキャラも素晴らしかった。長女役のマヤ・ホークも自然体でとてもよかったです。

編集、撮影、俳優陣、タイトルとエンドクレジットの出し方も秀逸で、ストーリーの一本調子さをできるだけ感じさせないようにする工夫に隙がなく野心的な作品。特にクレジットが黒地に鮮やかな黄色でタイプされている色調に、グラモフォンレーベルのレコード味を感じて、細部へのこだわりを感じた。
そして、クレジットでも取り上げられていた、カズ・ヒロ氏のメイクアップ技術は驚異的でした。

もちろん、ネトフリ映画は配信でナンボ故に、家にシアターを整備すればいいのでしょうが、本作のようにクラシック音楽とこの葉ずれのそよそよ音の厚みが素晴らしいミックスの作品は、ドルビーシネマでも観たかったなぁと思う限り。
小規模上映は仕方がないと思いつつ、様々な検討を重ねた結果、10年以上ぶりに立川・シネマシティを来訪し、極音上映で観れたことは良かったです。
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