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笑いのカイブツのsayuriasamaのレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
4.0
人生を「究極」に生きる、究極にしんどい男の生き様

とある深夜ドラマ(名古屋行最終列車)の1エピソードに出演していた岡山天音の演技に魅力されたので、出ずっぱりの映画ときたらとスクリーンで観たいと思い、新年1本目の作品となった。さすがの存在感と演技力に釘付けになった。今後も本当に活躍が楽しみな俳優さんです。いろんな役が観てみたいなあ。

さて、本作は「大喜利投稿」に全人生をかけ、そこから構成作家としての腕を見込まれながらも、自らの不器用さを受け止められず振り回されてしまうある男のストーリーである。「笑い」を追究し、ネタを書き続けるということは、実際はとても苦しいことなんでしょうね…

ハリウッドにも、ロバート・デ・ニーロの『キングオブコメディ』やサリー・フィールド&トム・ハンクスの『パンチライン』など、コメディアンの舞台裏作品というのは、主人公が純粋過ぎて痛々しく見えてくる作品が多く、お笑いもついでに観られる、という感覚はない。そして、破滅的な生き様を表現する、演技派俳優達の確かテクニックも感じられる題材なので好みだ。本作『笑いのカイブツ』も、そういった路線であり、ある意味王道の「笑いのバックステージ」モノだった。とにかく岡山天音が常に痛々しくて、見てられない。けど、才能豊かなことはわかるのでもどかしい。そんな辛くも充実している作品だった。

岡山天音演じるツチヤタカユキの「狂気」は、実は誰しもが多かれ少なかれ要素として持っていて、人生で悩むポイントの1つなのでは?と思うと、余計に辛く思えた。自分の理想を追い求め努力しついに世間に認められることと、認められたが故、広く支持され続けるためには何かを捨てることが必要で、それは理想と相容れず、葛藤する…そんな葛藤を遠くから眺め、それとなく言葉をかける菅田将暉演じるピンク。(かっこよくて要領のいい、おいしすぎるポジションでした)
お笑いの世界が題材でありながら、自らの生き方を問われるような力強い作品だった。

映画を観ている途中で、「絶対的な腕は確かなものがあるのに、自己プロデュース力が控えめで営業下手なところがある故、思ったより成績がついてきてないものの、同業者からの支持・評価が高い」というポジションにつきがちな、もったいないキャラの人を思い出してしまった。もちろん、ツチヤタカユキほどの表立った狂気はさすがにないし、廃人タイプでもないですが…
特に東京のシーンでは、《世の中でトップランクに売れ続けられる人と、そこにマッチしそうでしない人の違い》というのは、きっとあるのだろうなあと個人的に思ってしまった。
…自分が、どちらかというとツチヤタカユキ要素に寄ってることを映画を観ながら痛感してしまったし、そうやってもがいている人をかっこいいと思ってしまうタイプだと再認識したこともあるのですが。

ただ、作品はとても面白く観れたのですが、テンポは悪く感じたかな〜少し観づらかった点は、全般に流れが単調で、メリハリがなかった点。ツチヤタカユキの抱える、狂気的にも思える「完璧な笑い」を追究する姿と、成功しそうなのにしない、売れるための妥協への葛藤が分かりにくく、俳優陣の好感度と演技力に助けられている点が気になった。それだけ、生きづらさの演技が傑出していたことは言える。

たまに入る大喜利の字幕演出はユニークで良かったのですが、大阪で、黙々と笑いを追究する姿と、東京進出して構成作家として活躍し始めたあとの演出にメリハリがあれば名作級に思いました。
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