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パンチラインのsayuriasamaのレビュー・感想・評価

パンチライン(1988年製作の映画)
4.4
コメディを生み出すことは、血の滲む努力家たちばかりだ。夜な夜な笑いを追究する主婦と青年の切ない交流

「笑いのカイブツ」を観る気になったのは、この作品がすごく好きなことがあるからだ。本作は後にフォレスト・ガンプで親子を演じる、サリー・フィールドとトム・ハンクスが共演した、隠れた作品。この時のトム・ハンクスめっちゃ若い。若かりし日の、ヘンテコ設定なコメディ作品に出ていた時代の軽さと、後に国を背負うような本格派俳優への姿が、いい感じにミックスされて、90年代の名作連発作品にはない魅力が詰まっている。もちろん、サリー・フィールドも、スタンドアップコメディの腕を磨く、しがない主婦を好演している。

医者の家系に生まれた大学生スティーブン(トム・ハンクス)は、夜な夜な劇場でスタンドアップコメディアンとして活躍し、スターになることを夢見ている。そんな中、成績不良で医学部を除籍になってしまう。同じ劇場で活動する、同じくコメディアンとして成功したいと願う主婦のライラ(サリー・フィールド)は、家族で貯めた旅行資金に手を付けてまで、ネタを買ったものの、本番では全くウケなかった。そんな中、劇場で人気を集めるスティーブンに、ライラは「弟子入り」を志願し、二人のコメディアンとしての成長と交流が始まる…

この時期のハリウッド作品特有の、若干安易な?サイドラブストーリーがあるものの、まあ、ラブコメでも割と売れてたトム・ハンクスの若かりし日の作品なので目をつぶります。

見どころはスティーブンの笑いに対する腕はあるのに、どこか脆くてあぶない存在感と、それを受け止めるライラ、そして本当の愛とやすらぎを知っているライラの夫や娘たちの愛。そして、ライラの芸に対する真摯な姿勢。

この作品のトム・ハンクスは、瞳の奥がキラキラしていて、だけど割れたガラスを素手で触ると痛くて直接触れないような痛々しさが魅力的。そして、コメディアンとしての腕は素晴らしいのに、ちょっとムラっけがあるという、他の作品にはない魅力的なキャラクター。特に、病院で慰問するシーンは面白いです。
サリー・フィールドの、平凡な主婦としての自分と、実力を試したいという夢をおいかける自分との葛藤も、自然で応援したくなるし、一見ライラの夢に否定的だった夫(ジョン・グッドマン)や娘たちとの関係性もほっこりした。
ラストも、スッキリはしないけど、まとまってはいるので満足です。

深夜にスティーブンとライラが、次々に道場破りのように飛び入り参加して腕を磨くシーンは少し憧れました。
やはり、お笑いと人生の組合せは、ほろ苦い。

劇場の他のコメディアンや支配人たちのキャラクターも良くて、人生の悲哀と笑いと仄かな慕情をしんみり感じる、好きな作品です。
眠れない夜中に一人で観たくなる作品です。あんまりお昼に観ても雰囲気は出ません。
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