もしもし五反田

マエストロ:その音楽と愛とのもしもし五反田のレビュー・感想・評価

4.8
とにかくブラッドリー・クーパーとキャリー・マリガンの演技が素晴らしい。

初めて役者の“気迫”に泣けた。
それくらい、音楽とともに生きてきた人間そのものだったし、
音楽や演劇を介して愛に生きた人間そのものだった。

そして、
音楽が真ん中にないとお互いの愛情も言葉も介することができなかった関係性は、
果たして本当に幸せだったのか。
悲しく切ないことだったのではないか、と考えてしまう。
“そこに音楽があったから”互いの距離が近づいたのだけれど、
“そこに音楽があったから”見えなくなるものがたくさんあったのかもしれない。

指揮者という職能が持ち合わせる“エゴ”についても考える。
様々な演奏者を束ねて自分の音楽を創造していく指揮者が聖人であるわけはなく、
ましてや家庭という小さな枠に収まるはずもなく。
そんな人に、愛を求めてしまうことの儚さや徒労。
でもそんな人だから、こそ愛してしまうという矛盾。
こうして二人をつないだ“愛”についてさまざまな考えが巡って、いろんな感情を引き出された。

管弦楽の素晴らしさがダイレクトに伝わるし、メイクや衣装も素晴らしい。
観れば必ず自分の中にある美しさや芸術の素晴らしさの基準が何段階も格上げされる作品だと思う。