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コット、はじまりの夏のMrOwlのレビュー・感想・評価

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
4.0
まったくノーマークでしたが、米粒写経・映画談話2月号(YouTubeで視聴できます)にて、我らが居島一平さんが激賞されていたので、気になって観賞してきました。
舞台は1981年、アイルランドの田舎町。日本では昭和56年頃です。大家族の中でひとり静かに暮らす9歳の少女コットは、赤ちゃんが生まれるまでの夏休みを遠い親戚夫婦のキンセラ家のもとで過ごすことになります。上には3人のお姉さん、下には小さな弟、そして母のお腹の中には、新しい弟か妹。家の中の雰囲気からあまり裕福ではないことが推察され、父はその言動からあまり良い父ではないことが直ぐに感じられてしまいます。伏し目がちな表情や陰のある面差しから、9歳という年齢よりも大人っぽく、そして胸の内には葛藤を抱えていると感じられます。普段から自分の感情を押し殺して生きてきたであろうコットは親戚夫婦のキンセラ家でも初めは寡黙なままで、子供らしく自分の希望を伝えたりすることはありませんでしたが、寡黙なコットを優しく迎え入れるアイリンに髪を梳かしてもらったり、口下手で不器用ながら妻・アイリンを気遣うショーンと子牛の世話を手伝ったりしているうちに、そして2人の温かな愛情をたっぷりと受け、一つひとつの生活を丁寧に過ごしていくうちに、次第にコットの心境にも変化が訪れてきます。わずか10歳前後なのに、セリフが少なく、更には抑制を効かせた演技で幼い少女の心の中にある葛藤や徐々にキンセラ夫妻に心を開いていく様子が、見事でした。キャサリン・クリンチさん、素晴しかったです。強いて言えば、ちょっと美少女過ぎるかもしれませんね笑。そして寡黙な少女の心を開く、キンセラ夫妻を演じたアイリン役のキャリー・クロウリーさん、ショーン役のアンドリュー・ベネットさんのお二人も素晴しかったです。コットに対して「秘密のある家庭は恥ずべきものだ」「この家には秘密はないよ」と警戒心を解すような言葉をかけてあげるアイリン。ただ、一方の夫、ショーンはコットには少しぶっきらぼうに接します。秘密はない、と話していたキンセラ家にも実は秘密がありました。其のことがアイリンのコットに対する接し方とショーンのコットに対する接し方に現れていたのですが、この秘密が3人の関係を深める重要な要素にもなっていました。次第にショーンもコットに対し愛情を注いでいく様子なども抑制が効いた物語の中でじんわりと、胸に染みてきます。秘密に関するとある出来事のあと、ショーンとコットが夜の海辺を訪れるシーン、そこでショーンが伝える言葉も胸に響きました。
樹々の合間から漏れる木漏れ日が余韻に残る秀作だと思います。基本的にアイルランド語での物語なので、少し耳に新しい響きの言葉遣いも新鮮でした。
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