KnightsofOdessa

サバイバルのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

サバイバル(2022年製作の映画)
3.0
[植民地主義と人種差別への諦めと絶望] 60点

2023年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。ロルフ・デ・ヒーア長編15作目。近作では盟友デヴィッド・ガルピリルと共にアボリジニの物語を描いてきたが、本作品ではそれを一般化したような構成になっている。というのは、黒人女性(BlackWoman)とだけ呼ばれる主人公を演じているMwajemi Husseinはコンゴ民主共和国出身の難民女性であり、主人公が都市で出会う兄妹は演者の名前的に恐らくインド系っぽく、そんな彼らが一緒くたに迫害されているからだ。灰か雪の積もった家の模型と虐殺される黒人のミニチュアが映し出され、それがガスマスクをした白人が囲んでいる悪趣味なケーミのデコレーションだと分かるという冒頭からフルスロットルだが、実際に作中の世界がどのような変化を遂げて今に至るのかは分からない。ガスマスクをしているのは白人だけなので、白人だけに効くタイプのウイルスや大気汚染なのか、それとも白人が裕福だからガスマスクを持っていて、自分たちだけ生き延びようとしているのかは分からんが、とにかくガスマスクは白人の象徴として扱われている。特に都市部では白人になりすます必要があって、捕まった黒人奴隷を解放することもできず、周りの白人と一緒に石を投げるフリをすることしか出来ない。

物語は主人公が檻に入れられて荒野に放置されるところから始まる。どうにか檻を抜け出した彼女は、行く宛もなく様々な場所を放浪する。その先々で色々な物を物々交換しながら旅を進めていく。特に都市部に着くまでは熾烈な靴の奪い合いが勃発しており、主人公も何度か奪い奪われを経験する。また、印象的なのはナイフを振りかざして威嚇する女性に空砲の銃を授けるシーンと寂れた街の歴史博物館を訪れるシーンだ。前者は短いシーンだが、ナイフだけでは負けてしまうなら空砲でも銃を有効利用せよ、という実用的な連帯にも見えてくる。後者はより直接的に白人によって排斥されてきた歴史に触れた上で、彼らの持っている特権性を奪い取る。都市部に赴いた主人公は前述の兄妹と出会い、三人は有色人種を奴隷として扱う工場に潜入する。どのシーンもメタフォリカルで、かつ主人公の不思議な優しさが滲み出ているのだが、ほとんど言葉による説明がないこともあって主人公が何をしたいのかが明かされず、場当たり的な展開になっていたのは否めない。ただ、どのシーンも絶望感が漂っているのだけは共通していて、最終的には痛みを伴う諦めと問題のない世界を夢見て死ぬ道しか残されていない。そういう意味では、『Alien Visitor』以前の監督作と同様に、主人公の潜在的な望みが叶えられるラストになっているのかもしれない。
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