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アダマン号に乗ってのSPNminacoのレビュー・感想・評価

アダマン号に乗って(2022年製作の映画)
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窓が印象的だった。パリ中心地を流れる川岸に、木製の窓が沢山ついて動かない船の形をしたアダマン号がある。窓の扉を閉めても隙間から光が差し込み、日当たりの良いデッキには植木鉢が下げられて、まるでヴァカンスにいるみたいに開放的。セーヌ川に架かる橋と、同じく船に架かる橋が街と人を繋いでいる。このデッキが街の歩道と同じ視線の高さなのが良い。
そこは音楽家、画家、作家や詩人やダンサー…を自称する様々な精神疾患患者が集まるデイケアセンター。シネクラブ(上映会のラインナップいいなあ)やワークショップがあり、創作に没頭する個室があり、それぞれ余白がある。お金の計算にも、ニコラ・フェリベール監督のドキュメンタリーにも余白がある。
共同作業や会議の中で、誰がチームスタッフだろうと思ったら、カメラは終盤までスタッフの顔をほぼ映してなかった。そもそも見分けなど付く訳ないし(精神科医も)、カフェに並ぶマイカップのようにみんなごちゃ混ぜ。思い思いのスタイルで、自分の顔(マスク姿と外した顔)を持つ個々がいる。等しくこの船の主体的な乗員だ。
雄弁に語る、歌う言葉にじっくり耳を傾けるカメラは、語らない人たちの表情も見過ごさない(比較的寡黙なのは移民ルーツの人たちだった)。一緒に過ごす時間とお互いの距離感にも余白があるのだ。
川の流れと映像は穏やかだけど、「人間爆弾」で始まるのもあって、「個を軽んじる世界にまだ屈していない場所」にはパンクなアティチュードも感じた。行先は見えない。それでも船は進んでいく。
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