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パスト ライブス/再会のfujisanのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.1
『PAST(過去)』 と 『LIVES(今)』と、 二人の距離

韓国系カナダ人、若干36歳の女性監督セリーヌ・ソン監督が自身の経験を元に撮った初長編映画で、北米でわずか4スクリーンでスタートしたものの評判が広がり、最終的にアカデミー賞 作品賞と脚本賞にノミネートされた映画。

評判の良さからずっと公開を楽しみにしていた映画でしたが、そんなハードル高めの目線を超えてくる、繊細な脚本と美しい映像が織りなす素敵な大人向けの恋愛映画でした。



そんな本作を、以下4つのテーマでレビューしていきます。
1,秀逸なオープニング
2.二人の距離
3.映画について
4.素敵なエンディング(ネタバレあり)


1.秀逸なオープニング
深夜のバーのカウンターでお酒を飲む三人の男女のシーンから始まるオープニングシーン。
真ん中が主人公の韓国系女性のノラ(グレタ・リー)、向かって左が韓国での幼馴染の男性ヘソン(ユ・テオ)、そして右がノラの夫のアメリカ人男性アーサー(ジョン・マガロ)

そんな不思議な三人組を見ている店内の女性たちの、『ねぇ、あの三人ってどんな関係だと思う?』 とささやく声。そして、声に気づいたかのようにノラがスクリーンのこちら側に目線を合わせてきます。

そこにタイトル、「PAST LIVES」の文字。
ですが、奇妙です。
「PAST    LIVES」 それぐらい2つの単語は離れていて、よく見ると、PASTに文字には韓国での幼馴染ヘソンの姿が、LIVESには夫のアーサーの姿が重なり、中央にノラの姿が映っているのでした。

まさに『PAST(過去)』 と 『LIVES(今)』。
そして、ノラとヘソンが同じ学校に通う、12歳の韓国のシーンから、映画が始まります。


2.二人の距離
映画は、12年おきの二人の過去を振り返る形で進みます。
好き同士だった同級生時代。そしてノラがカナダへ移住後、フェイスブック上で再会する24歳、そして、36歳の現在の二人。

12歳では手をつなぎ合っていた二人が、好き同士ながらオンラインで話すしかないNYとソウルの距離があった24歳。そして36歳で再会するも、その時ノラはオープニングで登場するアーサーと既に結婚していました。

36歳で再会した二人は過去を取り戻すように楽しげにNYを一緒に観光、一緒に乗った地下鉄でも見つめ合う二人でしたが、車内で互いに掴まった手が触れ合うことはありませんでした。

一週間後、ソウルへ帰るヘソンを車まで見送るノラ。
二人の距離はどうなるのか。それは観てのお楽しみですが、この映画は最後まで二人の『距離』が重要なテーマになっていたように思います。


3.映画について
本作は「エブエブ」のA24と、「パラサイト 半地下の家族」を作った制作会社が初タッグを組んだ作品で、たしかに、ラブストーリーをベースにしながらも多様性と現代風刺を含んだ作品になっていました。

物語でキーとなる韓国の言葉『イニョン』。
これは日本語で『縁』を指す言葉。そして、『PAST LIVES-パストライブス』には『転生』という意味もあるようです。

韓国から来た女性と結婚したアメリカ人男性と、韓国に住む男性。
ノラという女性がいなければ出会うことも無かった二人の関係はまさに『イニョン(縁)』 であり、異国・異文化間のコミュニケーションはA24っぽさが。

また、韓国に住むヘソンを取り巻く環境は、今問題になっている『韓国人男性の生きづらさ』がテーマになっており、「パラサイト」が描いた格差社会も描かれていました。

幼馴染と久しぶりに出会ってうんぬん系の映画は語り尽くされたテーマではありますが、それをNYの美しい映像や最小限に研ぎ澄まされたセリフ、手や視線など二人の距離を表す巧みな演出で完成させた本作は、アカデミー賞ノミネートに値する作品だったと思います。



(以下はネタバレ要素を含みます)




4.素敵なエンディング(ネタバレあり)
秀逸なオープニングとともに強く印象に残った、長回しのラストシーン。
空港へ向かうヘソンとそれを見送るノラの距離は、近くも遠くも無く。そして、車の到着を待つ2分間は、見ていて息が詰まりそうでした。

無邪気に好き同士でいられた12歳。
好き同士でありながら、それぞれの国で自分の人生に一生懸命だった24歳。捨てられないものがたくさんあって、もう簡単に動くことは出来なくなってしまった36歳。

本作では12年ごとが描かれますが、ヘソンがノラの結婚を知っていたり、ノラもヘソンに彼女が出来たことを知っていたりと、きっと、ずっと互いの心の中に相手がいたはずで、多分、『なぜ24歳のときに・・・っていう”if”』を抱えながらの生活だったはず。

NYでの再会シーン。
ノラは笑顔でヘソンをハグしにいきますが、ハグされたヘソンは腕のやり場に困っていましたが、韓国で幼馴染だったノラは欧米文化のなかでハグをするのが当然のようになっていて、もうすでに二人は違う世界に住んでいるんですよね。

昔を取り戻したいと思っていた二人でも、それぞれの人生の中でタイミングが合わないものなんだよな、としみじみ思いました。

そして再びラストシーン。
空港行きの車が到着し、いよいよ別れとなって、一瞬迷ったヘソンが自らノラを抱きしめる。多分、相当思い切った精一杯のヘソンの行動に、涙が出ました。

ラストシーンには賛否があるのかもしれませんが、私はこれもハッピーエンドだったんだなと。ヘソンを送ったあと、夫アーサーの腕の中で泣きじゃくるノラの姿を見て、そう思いました。

映画が終わった後、しばらくボーっとしていたい気持ちになった、素晴らしい大人の恋愛映画でした。


余談1:
自分も24、36の頃に大きな人生の転機があったことを思い出しました。特に当時は35歳が転職できる限界って言われていて、相当焦っていましたね。。

余談2:
あと、関係ないですが映画の開始前にブラッド・ピットとペネロペ・クルスのシャネルの広告短編映像が流れて、これが「ローマの休日」のような艶っぽさがあって素敵でした。

多分↓です(映像あり)

シャネルが叶えた、ペネロペ・クルスとブラッド・ピットのスクリーン初共演──「11.12」を主役にした短編映画が公開 | Vogue Japan
https://www.vogue.co.jp/article/penelope-cruz-surprise-premiere-alongside-brad-pitt-at-this-mornings-chanel-show

色々刺さってしまった映画なので長くなってしまいました。すいません😓
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