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パスト ライブス/再会のギャスのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
3.7
"しみじみ"とはこの映画のための感情表現だと思えるくらい、滋味深い情動で涙腺がゆるんだ。
まさに"時間"と"空間"による変容や受容、私たち日本人が「縁」として理解できるイニョン(摂理や運命と訳されていたが縁の方がしっくりくる)の深さや不思議が重なって、情動の次元を広げてくれた。

空気を読むという言葉があるが、張り詰めていたり緩んだりな空気を感じるシーンも多い。これは観客側が過去に体験した"人に対する想い"がかなり反映されるだろう。これはそれらを経てきた"大人"だけがわかる映画だと思った。

音楽がとても美しく、ミナリを思い出したのだが、音楽担当を調べてみよう。今の時代配信ですぐ聴けて浸れるのも便利だ。時間も空間も隔てなく便利すぎるほどに。


ネタバレ
白人のよく使うパラレルワールドやマルチバースは、アジア人が言うところの前世のイメージに重なるのかなとふと思った。何層にも過去に重なってゆく世界。そこには因果のようなものまで意味をなすぶん次元が増す。来世ではあの2人はどうなるのかと思い巡らす、おまけのような楽しさ哀しさ。

ラストの2人のタクシーを待つ濃密な沈黙の空間のあと、時間と空間の往復に張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、自分の中のナヨンとの別れや変容を受け入れたのか。
最後の彼女の涙と夫の抱擁のシーンについての感想戦は観た人と一緒に盛り上がるに違いない。その人それぞれの過去と現在を交えながら。
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