しの

コヴェナント/約束の救出のしののレビュー・感想・評価

コヴェナント/約束の救出(2023年製作の映画)
3.3
助けられたので助け返すという単純明快な構成だが、飽きずに緊張感をもって観れるのは、どことなく西部劇的な「いつ銃を抜くか」のサスペンスが徹底されていたからだと思う。とはいえ、この話を有り難がるのも危ういなと思っていたら、ちゃんとラストでドン引きできる。

シチュエーションとしては面白いが、戦争映画というよりいかにタリバンの人々を出し抜いて殺していくかのゲームみたいに描かれているので嫌悪感もある。これを単に男2人の恩義の話だとするなら尚更呑気だなと。しかし、ラストの蹂躙からのあのテロップがアンチカタルシスとして機能する。あれはまさに大国の力を見せつけるアメリカらしい王道展開なのだが、もはやモニター越しに「敵」が倒されるだけというのがゲームっぽさの極致でもあるからだ。一方で、普通にピンチに駆けつけたデキる奴みたいに描いている感じもあり、果たしてどこまで皮肉として演出しているのか判然としない。

もちろん、ラストのテロップとエンドクレジットにより、本作をむしろ美談として受け止められなくなる現実の欺瞞を逆説的に突きつけようとする姿勢は窺える。後半で救出時の記憶がしつこいくらいフラッシュバックする様は、恩義や絆というよりノイローゼに近い。そう考えるとコヴェナントというタイトルも皮肉的だろう。しかし徹底的に皮肉に落とし込むわけでもなく、むしろ映画の構成自体はシンプルで、単純に男2人の恩義の話だと見ようと思えば見れてしまう。その観点だけだと後半の展開は単純すぎるし、サスペンスの強度も薄かった。それがあえての外し展開にもなっていないのが辛いところ。

だからこそ、あのノイローゼ的なフラッシュバックも単にしつこいだけのパートになっている。そもそもラストのテロップにしても、じゃあ約束を守ればいいのかというとそうではなくて、そもそもこういう状況になってること自体おかしいだろという視点はあって然るべきだと思う。皮肉を描くにしてもちょっと踏み込みが甘いというか、いずれにせよ疑念の残る作りにはなっている。

というわけで、ここまで明確に構成するのであれば、初めは戦争映画のように見せて、しだいに男2人の恩義の話になり、ラストで本作自体を皮肉的に総括する……といった解体の過程をもう少し明確に見せて欲しかった。ちゃんと居心地悪くさせて欲しい。アプローチは良かったのだが。
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