ナーオー

コヴェナント/約束の救出のナーオーのレビュー・感想・評価

コヴェナント/約束の救出(2023年製作の映画)
4.0
ガイ・リッチーを舐めてる人にこそ観て欲しい!

ここ最近のガイ・リッチーはお得意のクライム映画だけではなく、スパイ映画『コードネーム アンクル』やファンタジー映画『キング・アーサー』、まさかのディズニー映画『アラジン』など様々なジャンルに挑戦しており、特に近年はガイ・リッチーらしいポップでスタイリッシュな作風は封印。徹底的にダークでシリアスな骨太クライム映画という新たな一面を見せてくれた『キャッシュトラック』が印象的。

そして最新作『コヴェナント 約束の救出』はリッチーらしいポップさだけではなく、ダークな作風だった『キャッシュトラック』にはまだ残っていたリッチーらしい過去と現在の時間軸を入れ替える演出すらも封印。ハードでシリアスな戦争映画という新たなジャンルに挑み、リッチー監督の長いキャリアの中で最も硬派でエモーショナルな作品でした。

"兵士"と"通訳"がアフガニスタンからの脱出 というストーリーだけ聞くと、ジェラルド・バトラー主演作『カンダハル 突破せよ』を思い出しましたが、プロットこそは似ているけど、全く異なる視点で作られており、全然違うタイプの映画でした。

まず本作、ジェイク・ギレンホール演じるアメリカ軍曹長キンリーとダール・セリム演じるアフガン人通訳アーメッド、この2人の間には友情はなく、キンリーがアーメッドを助けに行く理由も"友情"ではなく、助けてくれた"恩義"を返すためであり、この割り切ったドライな描き方こそ本作ならでは。劇中、キンリーはアーメッドが助けてくれたことによって、"常に彼のことが頭から離れない。俺は彼に呪いをかけられた" と言い、こういう題材を扱った作品ではあまりないネガティブさも印象に残りました。

とある映画ライターが"長期化するアフガン戦争を描きながらアメリカ政府を無批判どころか無邪気に称賛した映画で、ガイ・リッチーに失望した"と評していましたが、本作のどこの何を観たらそんなレビューができるんだろう…

なぜなら本作、はっきりアメリカを批判的に描かれているからです。例えば映画冒頭、タリバンによる爆弾テロによってアメリカ軍兵士とアフガン人通訳がその犠牲になる という展開。その後、主人公キンリーたちアメリカ軍兵士たちはこの戦死した仲間の兵士を偲んで乾杯するという場面がありますが、ここで名前を呼ぶのは戦死した兵士だけで一緒に爆死したアフガン人通訳の名前は言わない という自分たちのことしか考えていないアメリカ軍をさりげなく批判しており、他にも主人公キンリーは軍の規定を破り、非公式の違法行為に手を染めていたり… なによりもキンリーを感じ悪い、はっきり嫌な奴として描いています。

こういう面からもアメリカを称賛した映画ではございません。この映画ライター、もしかして寝てたんじゃないのか?仕事しろ笑

ただ本作、どうしても気になったところがありました…


それはクライマックス。


(結構ネタバレです……)


大勢のタリバンに包囲され絶体絶命の主人公たちを民間軍事会社の傭兵部隊が助けてくれるというラスト。盛り上がる展開ですが、AC-130を動かせて、アメリカ軍基地に駐在しているほどアメリカ軍と近い関係を持つ民間軍事会社。

どうしても実在する民間軍事会社であの悪名高い"ブラックウォーターUSA"を連想させられる。数々の"不祥事"、イラク戦争を泥沼化させた原因の一つと言われている傭兵たちが騎兵隊のごとく駆けつけて万事解決というのが気になりました。

絵に描いたようなハッピーエンド、題材にしては綺麗に纏まりすぎている気も観終わった直後は結構気になりましたが、今思えばイギリス人監督ガイ・リッチーのシニカルな部分が炸裂していたのかも。

ハリウッド時代のポール・バーホーベン監督作のような、"お前らアメリカ人の観客はこういうベタな展開が好きなんだろ?"という、ひねくれたガイ・リッチー節だったのでは?と思ったり。

また本作は実話ではなく、アフガン人通訳者についてのドキュメンタリーから着想を得たフィクションなので、この映画はあくまでファンタジーであり、現実はもっと悲惨で救いがないという知ると複雑な想いになりました。

ここに批判があるのは理解できますが、
アフガンから米軍が撤退して、ビザを約束しておきながら、それが反故にされてしまったことで通訳などアメリカに協力した人たちは全員タリバンに処刑された という"実話"。そのことに対しての"怒り"や映画の世界くらい、彼らに希望や救いを与えたい というガイ・リッチーの想いのもと製作された、"レクイエム"だということを知ると、ちょっと泣きそうになりました。

ガイ・リッチー監督の新境地であり、代表作の一つになること間違いない。アメリカでは次回作『The Ministry Of Ungentlemanly Warfare』の公開も控えており、ますますガイ・リッチーから目が離せないことになってきてます!!
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