はな

夜明けのすべてのはなのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.5
パニック障害を抱える男と、PMSに悩む女が仕事を通じて心を通わせていくという話。
これだけ聞くとなんて事ない映画で、たしかに起こることは瑣末な事ばかりで誰かが死ぬとか裏切りやどんでん返しがあるとか、大きななにかが起こるような物語ではないのだけど、本当によかった。

人物の描写がとても丁寧。かといって説明しすぎるわけではなく、さりげなく映像に残している。例えば山添くんが自転車を降りて押して坂道を登るシーンがあるが、次のシーンでは、彼とは別の2人乗りの親子が自転車で坂道を駆け上る描写が入る。
親子2ケツでも登れる坂を彼は降りて歩いている、という意味だととれる訳だけど、セリフではなく絵でこういう事をわからせるのが本当にうまい。

藤沢と山添の関係も絶妙で、2人のやりとりが良すぎて『どうかしょうもない恋愛ものに回収させないでくれ』と願いながら観ていた僕としては、一定の距離を保たせながら確実な信頼関係を描いてくれたのは見事で、さすがの三宅唱監督。
その他のキャラクターも全員、必要な場面で必要な量のアクションですべてを伝えてくれていた。2人の中学生記者の存在も飛び道具のようで、めちゃくちゃいいバランスで居てくれたと思う

知り合いにパニック障害の人を知ってはいるけれど、彼らの生活の実態はぼんやりとしか知らなかったので、この映画を通して病気について認識を改める事ができたのはよかった。
ラスト、プラネタリウムの中で登場する詩が本当に良くて、予定外に落涙してしまった。その詩がまた読みたくて、鑑賞後にその足で書店に向かい、原作本を手にしました。 

めちゃくちゃ良い映画です。

惜しむらくは、アートワークの微妙さ。三宅唱監督でなければ観たいと思う事はなかったと思う。
はな

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