耶馬英彦

アナログの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

アナログ(2023年製作の映画)
4.0
 百人一首にある平兼盛の歌を思い出した。

しのぶれど
色に出でにけり
わが恋は
ものや思ふと
人の問ふまで

 インターネット、特にスマートフォンは、我々の生活を劇的に変えた。手紙を書いたり固定電話の前で着信を待ったりすることはない。待ち合わせで何時間も待つこともない。図書館や本屋で調べ物をしたり、人に道を聞いたりすることもない。映画も食事も交通機関もスマホで予約できるし、買い物もできる。東西南北、老若男女、悉くスマホを使いこなして便利に生活している訳だ。
 では、代わりに失われたものはなんだろうと考えると、ちょっと悩む。いろいろ考えられるが、一番大きいのは、自分ひとりで考える時間ではないだろうか。それは他人との距離感が狭められたことに由来する気がする。
 ツイッターでは、会ったこともない人同士が互いに中傷し合ったり非難し合ったりしているのを見かける。大事なのは自分でよく考えることなのに、他人を論破することにエネルギーと時間を使っている。人生の浪費だ。スマホを持つことで損なわれようとしているのは、人間としての深みかもしれない。

 スマホがない方がいいと言っているのではない。時間の節約やら勘違い防止やらで、スマホがあったほうがいいのは間違いない。しかしその分、スマホに振り回されているのも事実である。
 ほんの30年前までは、携帯電話さえ普及していなかった。スマホが普及したのはここ15年くらいである。それが今や、電車に乗ればほとんどの人がスマホの画面を見ているし、道を歩きながら見ている人も多い。明らかに依存である。

 こういう作品を観ると、スマホを持たない生活もありだなと思う。日常でも旅行でも、事前にスマホでよく調べてしまうから、出逢いの喜びよりも落胆のほうが大きくなってしまうことがある。絶景を見ても、感動より前に撮影する。目的地に向かう道端の花の可憐な美しさに気づかない。自分で感じたり考えたりする時間を削ってしまうと、人生を損しているような気もしてくる。

 波瑠のみゆきは綺麗だったし、二宮和也はやっぱり演技が上手い。なんだかホッとする作品だった。
耶馬英彦

耶馬英彦