たく

僕の人生に追いつくときのたくのレビュー・感想・評価

僕の人生に追いつくとき(2022年製作の映画)
3.7
数時間過ごすたびに時間軸が1年後に飛んでしまう男の話。ジャンルとしてはタイムトラベルモノになるんだろうけど、日々の忙しさに自己を埋没させ、無意味に過ごす生き方そのものを寓話的に描くためにタイムトラベル演出を使うのが新鮮だった。誕生日の1日だけを切り取って年ごとに追っていくという似たような構成には「ちょっと思い出しただけ」があった。ダンテ役のエドアルド・レオは「おとなの事情」に出てたみたいだけど、ほとんど覚えてなかったね。

会社員のダンテが偶然の出会いからアリスと恋仲になる幸せな冒頭を見せておいて、実は日々の仕事に忙殺されてるダンテは自分の誕生パーティーに時間通りに出席することさえできない。この忙しさが頂点に達したところで、ダンテが数時間過ごすと何故か1年後の誕生日になってるという奇妙な現象に囚われる展開。このジャンルにありがちな、眠って翌朝目覚めたら、あるいは死亡したら、別の(あるいは元の)時間軸にいたという演出ではなく、顔を洗ったら髭が生えてたとか、家に入った子犬がまた出てきたときに成長してたとか、いつ時間軸が飛ぶか分からないスリリングな演出が印象的。

1年過ぎるたびに周囲の状況が様変わりしていくことにダンテがうろたえるのが、タイムトラベルのせいとして不条理っぽく描かれてるけど、これは忙しさにかまけて周囲に無関心になる生き方の虚しさを表してるんだね。そんなダンテを愛するアリスが、なんとか彼と良い関係を構築しようと奔走する姿が泣けて、やっぱり「男の薄情、女の愛情」は人間の本質。もう一人、ダンテの親友のガエタノがなんとも良いキャラで、ダンテがどんな状況になろうとも見捨てずに心配してくれるのがジーンと来る。彼にプレゼントされたジェットコースター券がきっかけとなり、人生を楽しむことこそ生きる目的なんだと気づくダンテに自然と共感する。

パンケーキを冷ますために1から10まで数える演出が繰り返し出てきて、これは人生先を急いじゃだめなんだってこと。これがラストで冒頭の新年のカウントダウンと対になってるのが洒落た演出。
たく

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