緋里阿純

ヴァチカンのエクソシストの緋里阿純のネタバレレビュー・内容・結末

ヴァチカンのエクソシスト(2023年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

実在したヴァチカンの主任祓魔師ガブリエーレ・アモルト神父を題材に、とある修道院跡を修復に訪れたアメリカ人一家の長男に取り憑いた強力な悪魔との対決を描く。

主演がラッセル・クロウという豪華さにまず目を惹かれるが、彼と組む事になる若い神父トーマス役のダニエル・ゾヴァットや、悪魔に憑依される少年役のピーター・デソウザ=フェイオニーの演技も光る。特にピーター君の演技は、特殊メイクやVFXを差し引いても非常に力が入っており、彼なしでは成立しなかったとすら思えてしまう程の熱演ぶり。

また、史実における宗教裁判の真相に大胆なアプローチが施されていたのが、個人的に好印象。悪魔による計画的な破壊のシナリオ、それを秘匿した教会の闇と、単なる悪魔祓いモノではなく、謎解き要素も含みながら進んでいくストーリー展開も面白い。

クライマックスに向かうに連れ、次第に頼もしくなって行くトーマス神父の成長物語としても楽しめる。基本的なペースはアモルト神父が握り、時にコミカルなやり取りを挟みながらも、最後は2人で共に地獄の帝王アスモデウスに立ち向かうというバディモノとしても面白く、何より熱い!また、クライマックスの悪魔祓いシーンは、超常現象感が存分に演出され、派手で見応えのあるSFチックな作りなのも○。

エンドロール後に実際のアモルト神父の写真が映し出されるが、舌を出してこちらに微笑むという何とも茶目っ気溢れる写真で、それだけではとても主任祓魔師という大役を任されている人物には見えないのがクスリとさせる。思えば、作中で神父は度々冗談を口にし、「悪魔は冗談(ジョーク)を嫌う」と語ってもいた。日本では、悪魔より悪霊・怨霊という概念が根強く、祓魔師も霊能者などと称される事が多いが、やはり日本でも「悪霊は笑顔や明るさを嫌う」という説があり、邪の者が陽の要素を忌み嫌うというのは世界共通なのかもしれないなと思った。

また、祓魔師(エクソシスト)というと海外ホラー作品だけでなく日本の漫画やアニメにも度々登場し、常に悪魔を相手にするイメージが強かったが、悪魔による憑依ではなく精神疾患による暴走を見抜くカウンセラー的な側面も描かれていたのは新鮮だった。何より、悪魔に憑依されたという事例の内98%は精神疾患等の実際には悪魔が関わっていないケースであり、残り2%に本物が潜んでいるというのも説得力を増す。
悪魔を祓うには、その者の名を知る必要があるというのはエクソシズムにおける常識の一つだが、強力な悪魔は人間の心の闇や過去の罪、後悔を看破し、こちらを攻撃する手段として用いるというのも良い。アモルト神父やトーマス神父の中にも罪があり、互いにそれを告白し合って神の赦しを得るというのも、彼らもまた人間であり、弱さを抱えて生きているという面が強調されている。

今回の一件はほんの序章に過ぎず、世界には残り199ヶ所もの悪魔による呪われた場所が存在するというも、まるで世界を巡る壮大な冒険ファンタジーの始まりを告げるようであり、続編を期待してしまう気持ちを煽られる。興行収入的には、既に黒字に達しているようなので、可能性はあるが。

Twitterで話題となっていて興味を惹かれたが、思わぬ良作に出会えた事に感謝したい。
ところで、主演のラッセル・クロウがこれまでホラー作品に出演しなかった理由が「夢に出るから」というのがあまりにも可愛すぎないか(笑)
緋里阿純

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