足拭き猫

レオノールの脳内ヒプナゴジア(半覚醒)の足拭き猫のレビュー・感想・評価

3.9
小説を書く人が自分の予想に反して登場人物が勝手に行動するようになってしまった、と話すのを聞くことがある。映画の作り手であるレオノール、自分の作品に出演していた息子が本物の銃で撃たれて死んでしまう。悔やむレオノールは映画が作れなくなり経済的にも困窮し、同居するもう一人の息子とも上手くいかなくなる。

作り手は自分の作品をどのように展開させるか、誰を殺そうが生かそうが自由で采配ひとつでそれを簡単に行うことができる。だけど本当に大切な人が死んでしまったらどうだろう。リアルに衝撃と悲しみが目の前に突きつけられる。脳内物語も最後の方に母を助けようとして息子が作品の世界に入っていってしまうが、その時点ではもはや展開は作り手のコントロール外。最後にレオノールが選んだのは自らが死んで解決すること。ある意味責任を負っているともいえるけれども、1時間半スクリーンで観てきた優しい人が自己犠牲でいなくなっていくのがすごく切なかった。虚構と現実は実は表裏一体で、だからこそ作る人は誠実でなくてはいけないと言っているように思えた。
さらに作り手のメタ視点でこの物語の締めはどうしたらよいんだろう?と悩む過程をちゃんと見せてくれるところも良かった。結果はちょっと笑っちゃったけど、物語だからハッピーな歌と踊りでOKだよね。

レオノール演じる女優さんの醸し出す雰囲気がすごく温かい。脳内で制作するVHS画質のアクション映画のB級感も懐かしく、物語が先へ進まない時に主役が踊りだしてしまうのには可笑しくてかわいくて笑った。それとフィリピンでは女性のディレクターって珍しくないのかな?テレビ局の人もそうだった。