ガチョビン

Mr.ブルックス 完璧なる殺人鬼のガチョビンのレビュー・感想・評価

3.2
ケビン・コスナーの声はいつ聴いても通りが良い。始終落ち着いた振る舞いで人格者らしいブルックス。そこに、悪性の人格としてマーシャルという彼にしか見えないキャラが現れ、内部での葛藤と対話が表現される。高度な知能犯が表・裏の顔で豹変する様子を2役演じるような作品・俳優も怪演なのだが、この場合、こうして完全に2役を別役者として切り離していることで、ブルックスは「どう見ても立派な人」の印象が高く維持され続けるのが絶妙。だが、いよいよ殺人行為に及ぶとなると、マーシャルは「どこにもいない」。普段通りの態度で淡々と殺人に及ぶブルックスだけが映り続ける。マーシャルがやっているわけではない。善性のように見えるブルックス部分がやっていることなのである。これがかえって、ブルックスのキャラを際立たせていて、巧妙だと感じる。

とまぁ褒めたのだが、結局この高度な知能犯で屈折したブルックスの性格、立ち振舞に魅力が感じられるかどうかが全ての映画だとも感じる。犯行までの情報収集や侵入、証拠隠滅などはさほど具体的に語られず、「とにかく完璧」という設定で進む。
他のキャラクターも色々あるようでいて、全て彼の手のひらの上。相当な事情を匂わせる実の娘の事情ですら、他の登場キャラクター同様、全てブルックスがどう動くかの必要最低限の材料としての描写しかなされない。真偽は最後までわからず、出し抜かれた周囲は置いてけぼりである様子が細切れに描写されるだけである。完全に彼の独擅場のまま幕切れ。
カリスマ犯罪者映画がたくさんある中で、これをあえて人に勧める理由は何かと言われたら「ケビン・コスナー好きなら気に入るかもよ」としか答えられない。そんな気がする。