YUSUKE@アイアンマンの人

窓ぎわのトットちゃんのYUSUKE@アイアンマンの人のネタバレレビュー・内容・結末

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

わさドラ最高作の『ドラえもん 新・のび太の日本誕生』の八鍬新之介監督最新作。取り急ぎですが、大傑作なんてもんじゃないです。日本映画の歴史に残る作品です。『捨て猫トラちゃん』シリーズ、『となりのトトロ/火垂るの墓』、『銀河鉄道の夜』、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』、『この世界の片隅に』と並べて遜色ない作品です。美しい動画と演出、黒柳徹子御大の原作になる極めて素晴らしいストーリーとテーマ。
客電がついても3分くらい席を立てず、その日一日なにも手につかなかったのはあらゆる映画で久しぶりでした。今でも反駁してると手が止まるほど(ただ私自身反優生思想・反差別主義であるのでバイアスはあるかもですが)

無用な知識と承知の上で書きます。後半トットちゃんが走り去るシーンでアホみたいに大泣きしてしまったんですが、ここで傷痍軍人は判っても鉄砲を持ったガスマスクの子について気づきにくいと思うのですが、ドイツを亡命した指揮者(『オッペンハイマー』でもその側面が描かれる)同様、アウシュヴィッツのことです。虐殺されていたのはユダヤ人だけではなく、たとえドイツ人であろうと障碍者もそうでした。『戦場のピアニスト』で車椅子のおばあさんがSSに突き落とされるのはそういうことです。兵隊ごっこに興じる子供たちはそれを無邪気に何も知らずに受け入れています。
またトモエ学園の子らがいじめを受けるシーンは、徴兵検査の丙判定(戦場に行けない)に対するあたりの激しさを想起します。無邪気な子供の口から「お国の役立たず」と発せられます。
ここで私が思い起こしたのは津山三十人殺しです。『丑三つの村』に詳しいですが、戦中徴兵検査で結核をわずらい丙判定を受けたことで村八分にされた土井睦夫が、ついに村人のほぼ全員を殺して自殺するという実際にあった事件でした。
多くは土井を人殺しと罵って終わりでしょうが、初めて詳細な経緯を読んだ時思わず涙ぐんだのを覚えています。今言えるなら優生主義のもたらした悲劇でしょう。トモエ学園の子供たちはそれに果敢に立ち向かいます。
それも演出が誇張や扇情や説明に逃げず、しかし子供に寄り添う形で。