みなみ

窓ぎわのトットちゃんのみなみのネタバレレビュー・内容・結末

窓ぎわのトットちゃん(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

表現に手抜きがないすごいアニメ。
トットちゃんの成長を通して見えてくる教育、戦争、差別、貧困、いろんなテーマがうまく内包されてるのにとっちらからず問題提起があり、どこを切り取っても誰かしらに響くように作られている。

前半はトモエ学園の教育方針をひとつひとつ映すのだけど、子どもが自由奔放すぎてヒヤヒヤする場面も少なくなかった。危ないから、面倒だから、と余裕なく子供を縛り付けて監視している私たち大人への挑戦的な圧があった。
子どもが裸でプールで遊ぶみたいなこと、今だったら絶対無理な社会になってしまったのはなぜなのか。子どもがプールで裸になることを危険だと思う一方、子どもをそういう目で見る加害性が顕著な今の社会の方が歪だと思わされる。

色彩豊かな家庭の温かさと自由な校風の学校の賑やかさから、戦争への連帯で衣食住その全てからじわじわと色が失われていき我慢を強いられていく恐ろしさ。
何よりも泰明ちゃんのお葬式後、喪失に押し潰されそうなトットちゃんを横に出征を祝う万歳の声の気持ち悪さ、不可解さがどんなホラーよりも怖かった。
反戦への気持ちがあり、自分の仕事に矜持を持っているトットちゃんのお父さん(仕事も選ばれし交響楽団で、仕事を断ることのできる裕福さがある)でさえ、完全に抗うことは叶わず、その波に飲まれていってしまう。
全ては説明できない子どもの目からもわかる、戦争の足音。

重たいテーマの中で、泰明ちゃんに変化があったのがすごく嬉しかった。
小児麻痺で身体障害があるためにみんなの足を引っ張るから、と色んなことを遠慮してた泰明ちゃんが、トットちゃんと出会って色々な初めての成功体験をつみ、その一つ一つに感動して生きることを最大限楽しんでいて、素晴らしかった。
泰明ちゃんが腕相撲で手を抜かれ本気で怒ることも、トットちゃんが自分のしたことを後悔しているようなシーンもお互いがお互いを信頼しているから2人で成長しあっていて本当に良い関係だと思った。
最後泣いてしまったトットちゃんを機転を効かせて笑顔にできたのに感動してしまった。助けられるだけだった子が自発的に動いて人のために何かできた瞬間。
彼のお気に入りの本が「アンクル・トムの小屋」なのも色んな葛藤を抱えていた子だとわかって切なくなる。

色んな事情のある生徒を抱えていたトモエ学園を支えていたのは、校長先生の情熱と文化資本、あとは身も蓋もないけど経済力というのを包み隠さず書いていてリアルだった。
貧困が、人を対する余裕のなさや教養と機会の喪失、間違った人種ヘイト、劣等感を生むことがわかっているのに、最近国の衰退ゆえにこういう悪い方向にどんどん進んでいっている。
おかしいと声を上げられるうちに、声を上げておかないとあっという間に引き戻せないところまでくるなと恐怖に感じた。
ゲゲゲの謎やトットちゃんのような映画が流行る今って色んな人が今を危うく感じているからだと思う。
エンタメとしてこれを消費するだけでなく、今後の行動が問われている。選択できる豊かさがあるうちに動いていきたい。
この子ども目線で書かれた映画を観ても、感情移入するの周りの大人たちだったから、これを見てどう良い大人になるべきかちゃんと選んでいきたい。

アニメーションとしても挑戦的な作品だった。
子どもの顔が描き込まれていて、ひとりひとり個性的に、表情豊かに、ちょっと大袈裟に見えるくらい顔がよく動く。頬や瞼や唇の赤みは最初すこし受け入れ難いけど、大人との描き方に差があってあくまで子どもが主人公の話という説得力に繋がっていた。
いわさきちひろや、藤城清治のような児童画作家へのリスペクトが感じられるアートワークも見られた。
トットちゃんの表紙がいわさきちひろなのは調べて知った。
みなみ

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