難解な文芸大作を見せられるのかと思ったら、よくできたエンタメだった。面白かった。
ただし、私はこの映画にとって「良き観客」ではなかった。その理由は２つ。「レスリー・チャンよりコン・リーを美しいと思ってしまった」「京劇のよさがさっぱりわからなかった」からだ。
レスリー・チャンに素直に感情移入したほうがこの映画を楽しめたのは間違いない。ただ、私は完全にコン・リーにもっていかれてしまっていた。文化大革命のくだりは彼女がかわいそうでかわいそうで……だからラストシーンもレスリー・チャンに感情移入してた人に比べると感動の度合いが少なかったと思う。
また京劇のよさがよくわからなかったのも痛い。正直退屈。京劇に対してもう少し鑑賞眼が私にあれば失われていく伝統の哀しみみたいな部分をもっと切実に感じたことだろう。その意味でも私は失格。
例えば私はヒップホッブを聞いてそれが早口言葉にしか聞こえず、そのよさがわからない。これはひとえに私の耳の古さがもたらしたもの。私はヒップホップを聴くことができない。
だが、この映画の場合は違う。だめな観客の私にも面白いと思わせ、三時間の長丁場をぐいぐいと引っ張っていく。すごい映画だ。私が良き観客であればと悔やまれる。
