BATI

首のBATIのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
4.4
美術、人員にお金をかけて大作然りとしていないことが粋。安土・桃山時代を舞台としつつ、やっていることは「TAKESHI'S」と同じく北野武の無意識下の精神表層に見えた。これだけ男性同性愛を肉体表現含めて描くのもそう。131分かけて描く「男は男が好き」と男性権力社会の形骸さ。面白い。

想像した通り、大島渚の「御法度」と同じくホモソーシャルの中の同性愛が大きく描かれ、権力者の力の象徴であり、「遊び/戯れ」と嗤いつつも本当は本気で男を好きであること。様々な男たちの関係性が描かれ同性愛者に見えない人間が出てこなくなる。一番疎遠に感じるたけし演じる秀吉も怪しく見える。権力闘争にある中、情が移ったら死が訪れる。それを知っているのが秀吉であり、家康である。

作品のルックとしては合戦の撮り方もう少しなんとかならなかったのかと思いつつ、そこは北野武が重きをおいて描こうとしているものではないだろう。それでもこれだけのエキストラ使ってやっている手抜きのなさは見事だ。ケチくささがない。

ほぼ主役の明智光秀、そして難波茂助。茂助に関してはたけし軍団の一員を思わせるようなキャラで、新左衛門もたけしそのものを思わせるようなキャラ。一番男性同性愛から遠いところにあるように見える秀吉がたけしの超自我のようにあるのと同時に、秀吉をたけしが演じるという冗談なのか本気なのかよく分からなささは、この作品のテーマに合っているし、逆に普通の上手い俳優がやっては映画の品格は落ちるだろう。たけしという俳優がいることで保つ映画の格。イーストウッドと同じようでありつつ、もっと北野武の自分の起用法は高度なものに感じる。

冗談みたいな時代劇なのか西島秀俊がこれまで観た映画の中で一番上手く見えた。この映画自体が持「芝居性」がゆえか。この「芝居性」というもころも大島渚の「御法度」との近似値を感じる。

黒澤明が「首」を観たら何と言ったろうか。黒澤明が生きていたら撮れなかったんではないかとも思うし、黒澤明もこういったホモソーシャルの作品を撮ってみたかったのではないかと思うのだった。黒澤も、結構なやおい者、やおいストだと思うんだよね...。男と男の関係性大好きだし。

笑えるシーンこそあれど、「首」はコメディには全然見えない。相当真面目に自己言及してる映画。やっぱり「TAKESHI’S」が一番遠いようで一番近い気がする。

とにかく男をカッコよく描かず、醜くも愛くるしく描いているので何だかんだカッコよくなってたアウトレイジシリーズより好きです。そもそもアウトレイジしかりカッコいいアウトロー/無頼者描き続けた自分への批評でしょこれ。
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