十一

キリエのうたの十一のレビュー・感想・評価

キリエのうた(2023年製作の映画)
4.0
90年代から少女を描いてきた岩井俊二ならではの葛藤が本作でも見て取れる。不可侵な神聖としての少女と欲望の対象としての少女。美しいものを手に入れたいが、手に入れることでその美は失われる。その矛盾した欲望のありかたは、過度に理想的なものに憧れつつも、その欺瞞と限界に向かい合った90年代サブカルチャーそのものだったのではないかと今になって思う。相反する二つの性質は、矛盾した欲望の両側面であり、完全を求めることで葛藤の中で二つに引き裂かれる。岩井俊二に見出された女優達が世間に見出されたのは、その両端においてポテンシャルを否応なくスクリーンの上に引き出された結果だったのだろう。美しいものは美しさ故に、他者の介在を拒む。雪原の鳥籠に象徴されるよう、その二つの関係は無垢で純粋で、行き場がなく、他者の存在をも拒む氷雪の心象だが、その美しさを求めたのは誰だったか?観客の欲望ではないとするなら、欲望を拒絶し、美しさという呪いを解くことで自由を得ることが本当の幸いではなかったか。少なくとも、路上ライブで官憲に反抗してみせることがその答えではなかろうに。矛盾した欲望を拒絶することなく、やはり破滅に向かう本作の結末に、未だ残る90年代の呪縛を感じずにはいられない。
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