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PERFECT DAYSのしおりのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

これまでに観た中で、5本の指に入るぐらい素敵な映画。生活そして人生への向き合い方が変わる。

まず、一つひとつの音がいい。まるで耳元で聞いているかのような衣擦れ、ため息、東京の音。

冒頭は単調なシーンが続くが、カメラワークとライティングが素晴らしく、見飽きることがない。そもそも、役所広司さんの存在感が強烈で、何気ない動作に目が奪われる。

役所広司さん演じる「平山」が車内でカセットテープを手にしていたので、前世紀の話かと思ったら、次のカットにスカイツリーが登場してびっくり。

古本や昔のカメラ、畳など、身の回りのものを大切に扱う描写が続く。これぞ、「ていねいな暮らし」だな、と。「ていねいな暮らし」って、インテリアをシンプルかつおしゃれに整えたり、こだわって作られたものを多数身につけたり、ということではなくて、ものや人や自然と丁寧に関係を築くことなんだな、と思わされた。

そうやって、大切にしてきたもののよさを誰かにわかってもらえた時の喜びを、無口な「平山」の微笑みが、もうどうしようもなく表現してしまっているな、と。そして、それらがないがしろにされた時の憤りも。

「平山」は日々の小さなことに幸せを見つけていて、その様子が羨ましく思える。大量のものやことに囲まれて、私は幸せの受容体を失ってしまったかもしれないね。

毎日のルーティンが、とても心地よい。安心する。休日のルーティンも好きだったな。平日には触れない時計をはめて、現像した写真を受け取るとともに、フィルムを現像に出し、新しいフィルムを買って。

ただ、同じ毎日が続くなんていうことはあり得ない。似ているようで、必ず違う。木漏れ日のように。そして、ルーティンはいつか終わってしまう。お店のママの、どうして同じままでいられないんだろう、という言葉が刺さった。

ルーティンが崩れることには、ポジティブな面もある。いつもとは異なる幸せがもたらされたりもする。もちろん、ネガティブな側面もある。仕事に忙殺されて、ルーティンが崩壊して苛立つ感じなんかはリアル。

全編を通じて「Perfect days」に思えるものの、幸せなだけではなく、悲しみも湛えていて。どこか、終わりの気配をはらんでいて。ガンが見つかった男性の、何も知らないまま終わっちゃうんだなあ、という言葉が重く残った。人生って、本当にそんなもんなんだろうな。

登場人物の涙の意味が説明されないことも多く、余白がたっぷりあって、想像の余地を残す。映像なのに、本を読んでるみたいだった。

それにしても、東京のトイレ、おしゃれだなーと思っていたら、そもそもトイレ設置のプロジェクトの一環でこの映画ができたのだと。プロデューサー、すごい。

挿入歌は、ルー・リードの「Perfect Day」が最高でした。

クレジットにVFXとあったけど、どこで使われていたのかな。
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