掛谷拓也

PERFECT DAYSの掛谷拓也のレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.2
映画館で観てよかった。ヴェンダースらしいデラシネが主人公。日常からの逸脱はほとんどなく安心して見ていられる。スカイツリーが何度となく映るが、これが垂直の視点を与えているのだと後半になってわかった。スカイツリーの先端から浅草駅地下の居酒屋への繰り返される視点の移動がよい。スカイツリー近くのアパート、軽トラ、トイレ掃除、合間に銀塩カメラで撮る神社の木漏れ日(代々木八幡)、カセットテープで聞く70年代音楽。古本屋、文庫本、ラジカセ、銭湯、小料理屋。判で押したような生活に逃げ込んだ役所広司の感情が大きく動いたように思えるラストシーンで、首都高の朝焼けに流れるルーリードが良い。映画を見終えて、ビル11階からのエスカレーターを降りながら見た見慣れているはずの駅の雑踏がいつもとは違う音と風景で感じられ、この映画を見ることで意識が変性していることに気づいた。帰宅して横になった時にも、ベッドサイドのライトで文庫で文学作品を読みたい気分で、まだ映画を見た情緒が続いている。オスカーは惜しくも逃したが、それはそれでよかったのではないか