グラビティボルト

エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命のグラビティボルトのレビュー・感想・評価

3.9
「ムッソリーニ」ほどではないものの、何を考えているか計り知れない人物達による物語の異様なうねりと唐突なアニメーションの乱入、まさかのキリストパイセン復活夢など、力強さは健在。終盤は
心の芯まで洗脳された者が親族と決定的に断絶してしまうホラー映画だった。

守護され、愛されるべき子供が何を考えているのかわからなくなる瞬間と、とてもピュアに見える瞬間を行き来してるのが見事だった。
特に、キリストの杭を抜きにいく(ヴァーホーヴェンを軽く凌駕しとる)場面の誘われるような歩き方と対照的に母親に駆け寄るショットの躓きアクションの必死さとか凄い。

子供一人とっても多面性のある映画だから、子を誘拐された両親の描き方も一筋縄ではいかない。
特にあの母親の憎き対象を見定める目力の強さたるや。
エドガルドが青年になってから再び登場する危篤シーンでもその力強さは維持されているんだけど、それが助け出したかった子供に作用するのが皮肉。

あと、違う空間同士が繋がったかのように見える時空飛躍編集も最高に格好良かったな。
ユダヤ教のモルターラ家と、エドガルドが隔離されたキリスト教会のお祈りクロスで今にも絶叫しそうな母親のアップからエドガルドに繋ぐとさも正面から向き合ったように見える。
ここまでなら去年の「The son 息子」もやってるし、よくある巧い編集なんだけど、本作の母親はよりによってエドガルドがその場にいると錯覚して視てしまっていて、その幻覚とも眼を合わせてしまうのが衝撃的。
生霊を呼び寄せるような、役者の目力とけたたましいベロッキオ映画のテンションだからこそモノに出来た場面だと思う。
後半で、誘拐を仕切った神父を裁判で有罪に出来なかった父親とのクロスと対比の関係になっている。

罪悪感が心ではなく身体を苛んでしまう教皇周りも面白かった。