グラビティボルト

マーサ、あるいはマーシー・メイのグラビティボルトのレビュー・感想・評価

3.9
ショーン・ダーキン、1作目にしてこの繊細な絶望感を撮ってしまうとは。
クライマックス、エリザベス・オルセンが河で泳いでいると見える向こう側にいる人物の恐ろしさは勿論、カルトから逃げ延びた彼女の内面の時制が細かく行き来する編集も怖い。
彼女が過去の出来事を「夢」と思い込んでる節がある事をサラッと台詞で出すんだけど、この一言がより彼女の内面を複雑にしてしまっている。

転がり込んだ姉夫婦の家で生活するうちに主人公の性生活に関する認識のズレが周囲と歪みを起こしていく。
そのズレが何処から来るのか?をマッチカットで回想するので、寝る、立ち上がる、食事するという日常動作が忌まわしい記憶と接続されてしまう。

あと、中盤から表出するカルト教団による豪邸侵入シーンの恐ろしさよ。
遂に家主に気付かれて、終わりか・・・と思いきや背後から近づくあの女性の幽霊のようなフレームイン、一瞬ジャンルが変わったのかと錯覚するほどの非人間性があった。

「アイアンクロー」でもバイクや車は効果的に撮られてた気がするが、
本作クライマックスのこのショットの端的な絶望感、恐ろしさは凄いよね。
エリザベス・オルセンの向こう側、チラッと映る後続車の逃れようの無さ。
しかし、あくまで夕暮れはきらびやかに映っていて、彼女らがどうなっても世界は進む。怖い。