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About Dry Grasses(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

About Dry Grasses(英題)(2023年製作の映画)
3.5
[トルコ、幼稚過ぎるカス男の一年] 70点

2023年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。2024年アカデミー国際長編映画賞トルコ代表。ヌリ・ビルゲ・ジェイラン長編九作目。アナトリアの僻地にある学校で美術教師として働くサメットは、なんもない土地にイライラしながら、同僚のケナンとルームシェアして暮らしている。お気に入りの優等生セヴィムに都会で買ってきたコンパクトをあげる等のガチヤバ教師だが、彼以外の登場人物も大概パチキレてるので珍獣博覧会の様相を呈しており、最早笑えてくるレベル。セヴィムが書いた恐らく他人宛のラブレターで機嫌を損ねたサメットが、生徒を相手に当たり散らしてご満悦なシーンなんか実に滑稽。サメットは兎に角この土地が嫌いなので、大体のことは土地のせいにしていて、生徒たちにも"お前らは金持ちのために野菜育てるだけの人生なんだから芸術なんて理解しても無駄"とか言ってたし、田舎に住むケナンの両親についても"牛の世話と息子の結婚くらいしか関心事がないだろ"とか暴言を吐きまくってる。否定する事実が出てきても、その偏見は留まるところを知らない。

もう一つの軸として、別の学校に勤める英語教師ヌライとケナンとの三角関係がある。セヴィムが自分の物じゃないと知って機嫌を損ねたのと同様に、狙っていたヌライがケナンに靡いてると知って動き始める。ヌライとサメットの討論は本作品のハイライトの一つでもあり、サメットが勝ち馬に乗りたいだけの幼稚な冷笑系リベラルであることが浮かび上がる。政治的姿勢より性格が先に完成したんだろう。確かにセヴィムの告発がケナン狙いかもという憶測を聞いて安心した顔でマウント取り始めたり、生徒に衣服を配るイベント(?)で一人ずつ生徒を呼んで優越感に浸ったり、最後の1秒まで、どの瞬間もカスじゃない瞬間がない。カスはどこまで行ってもカスなのだ。印象的な雪景色をバックに振り返るセヴィムのスチルが、まさかあんなクソキモ自慰ポエムの妄想シーンで出てくるとは思わなかった。ここまでくると一貫してて良いと思いますとしか言えない。

暗闇の中で酒を飲みまくる獣医が登場したんだが、これは明らかに『サタンタンゴ』だろう。ただ、医師は同作における神のような立ち位置だったのに比べると、本作品ではそこまで印象は強くない。他が強すぎるだけだが。
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