はぐれ

落下の解剖学のはぐれのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.0
雪に閉ざされた山荘で起きた男の転落死をめぐる裁判劇。夫婦間格差、国際結婚、セクシャルマイノリティー、メディアリテラシー、フィジカルハンディキャップ、などなど様々な問題を内包しつつ、我々人間の記憶がいかに曖昧で、いかに主観に基づき、いかに希望的な憶測の上に成り立っているかをまざまざと見せつけられる2時間半。

最後は少々テーマを登場人物に語らせすぎたきらいはあるけど、僅かな隙間もなく緻密に計算し尽くされた完璧なテキストに惚れ惚れ。
いくら不確かな情報であったとしても、それが自分にとっていかに大事な真偽であったとしても、最終的には各々が自分の中で情報と感情を咀嚼して「心で決めるしかない」のだ。そしてその決断という名の十字架を背負ってその先の人生も歩んでいかなくてはならない。そんな達観にも似た覚悟をスクリーンから受け止めてしまった。

芸人さんやアイドルをストーキングして自分の都合のいいように脚色して社会的利益と謳いながら自社の利益の為だけにスキャンダルな記事を書き立てる週刊誌。そしてその記事もSNS民の格好の暇つぶしに利用されて益々、本来の事実とはかけ離れて捻じ曲げられていく昨今の風潮。
人間の愚かで醜い悪しき習性だよね。
裁判で心を切り刻まれていく少年のように、ご家族やファンの方々は自己を不確かな情報から守る為に、こちらも自分の都合のいいように情報を脚色して捻じ曲げて、それこそ心で真実を決めてふてぶてしく生きていくしかない。
そんな病める現代社会へ生きる者へのエールも感じられる佳作。
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