かめの

落下の解剖学のかめののネタバレレビュー・内容・結末

落下の解剖学(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます


ドキュメンタリーのような、ニュース番組の切り取りのようなカメラ演出が「映画」という枠組みを丸見えにしてしまっているんだけど、がゆえに登場人物一人一人への感情移入を拒んでいて、主観性/客観性にフォーカスを当てている本作のテーマをより浮き彫りにさせていたと思う。

主人公サンドラは、複数回の浮気が明らかになっていて、家事や育児もどちらかというと夫まかせ。一方で、社会的には小説家として成功している。こうして並べてみると、一昔前であれば男性に与えられていただろう、不道徳なキャラクターが意識的に選ばれているのはとりわけ興味深い。

そして、主観的にみれば主人公はパートナーを裏切り、非協力な、誰かを殺してもおかしくない、非難される(べき)人物としてみられる。

担当弁護士も、殺したか/殺していないか、それよりも「問題は君が人の目にどう映るかだ」と言う。事実(客観性)ではなく、裁判員たちにどう映るか(主観性)の方がより重要というわけだ。

裁判という舞台では当然客観性が求められるはずで、明確な証拠が必要となるが、誰かが証言し、それを問い、応えていくうちに判断の基準は非常に曖昧になる。はたして一個人の証言に、客観性などあるのか?

そして裁判の終盤、夫婦の一人息子、ダニエルが再び証言台に立ち、思い出したという、父親との会話を語り出す。あれは、犬の死期を覚悟させようとしたのではなく、彼自身(父親)の自殺をほのめかしていたのだ、と。

しかし、まるで父親の口を借りて話しているような、なめらかな話し方に、あぁこれはダニエルが母親と離れて繰り返し頭の中で練習した嘘なのだなと脱力してしまった。

父親との二人の車内。その会話を聞いた者は誰もいない。しかし、この証言が本当であろうと嘘であろうと、裁判員たちの主観性に強く影響を与えたことは否めない。父親を失った、目の見えない彼には、母親が必要なのだと。

そのことがよく分かっているサンドラはまっすぐ家に帰りたがらないし、ダニエルも再会が怖かった。「あの話は本当なの?」その一言で、二人の関係は変わってしまうから。

映画館を出てからずっと考えても考えても、考えたりず、改めて細部まで作り込まれた作品だなと実感させられた。

ここまで入念に描きこんでいるからこそ、最後、どんでん返しの判決、予想を裏切る展開なんてエンターテイメントに堕ちなくて本当に良かったと思う。

p.s.
hot lawyer最高。
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